赤字ローカル線存廃問題 「輸送密度」だけで足切りするな杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/8 ページ)

» 2022年03月20日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

【調査区間の距離】

 1キロメートル当たりの数値を知るため、距離を指定する。路線全体の距離を入れる場合もあるし、路線の中で区間ごとの数値を入れる場合もある。区間ごとに区切った場合、路線全体の中で数値の高い区間と低い区間が明確になる。その路線の中で特に利用の少ない区間があぶり出せる。だから、鉄道事業者が区間を区切り始めたら「廃止区間を見極めようとしている」と考えられる。

【年間の営業日数】

 たいていは365日、うるう年で366日になる。しかし、年度の途中で新規開通した路線を365で割ると、運行していない日を含んでしまう。災害で運休した路線も運休日を省く。JRの場合は運休日を含む路線の数値は「参考値」と但し書きをつける場合が多い。

 清書するとこうなる。

 輸送密度=「年間の輸送人数(人キロ)」÷「路線の距離」÷「365(うるう年は366)」

 本来、輸送実績を知るだけであれば「年間の輸送人数」だけでいいはずだ。輸送密度は「1日、1キロメートルあたりの平均値」だ。実際に1キロメートルの区間を通った人数ではない。

 1日の輸送量について、路線Aが2万人キロ、路線Bが4万人キロであれば、路線Bのほうが多い。しかし路線AとBは距離が異なるから、そのままでは輸送効率を比較できない。

 それなら距離で割って、営業日数が異なるなら日数でも割って、1日1キロメートル当たりの平均輸送量で比較しよう、という数字である。路線Bは距離が長い割りに平均輸送量は少ないね、という話になってしまう。

 輸送密度の本来の目的は「ほかの路線との比較」であり、路線単体の営業成績を知るためではない。確かに輸送密度が高ければ利用者が多い傾向はある。利用者が多いほど公共性が高いともいえる。しかし例外もある。

 そもそも、ある路線の利用度、公共性を知るならば「年間の輸送人数」の統計を見たほうがいい。それを足したり割ったりするから実態と遠くなる。

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