赤字ローカル線存廃問題 「輸送密度」だけで足切りするな杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/8 ページ)

» 2022年03月20日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

事業主体の前に「必要か否か」

 鉄道の存廃問題は輸送密度だけでは語れない。そのために、路線ごとの実情を把握する必要がある。輸送密度は小さいかもしれないけれど、輸送実態はバスに転換できない状況だ。

 そういう話は国土交通省も把握できていないだろうし、鉄道事業者も現場以外は実感しにくい。だいたい視察が日中のガラガラ列車で、早起きしたり1泊したりで通学列車を視察する手間などかけない。見れば分かることを見ないから論点がずれる。

 だからこそ、沿線自治体が資料を示す必要がある。「道路事情を考えるとバス転換は困る」「通勤時間帯の駅は混雑していて、むしろホームドアがほしいくらいだ」「プラットホームの屋根を延長できないから、雨の日は生徒の半分が濡れてしまう」などだ。「鉄道かなくなると地図から消されてしまう」などと情緒に訴えるより分かりやすい。

 「観光など交流人口の拡大のために鉄道が必要だ」「移住受け入れ計画に鉄道が必要」というなら、そのために自治体が何をするか、具体的な計画が必要だ。鉄道事業者は5カ年計画など事業計画に沿って経営を考える。自治体はどうか。鉄道が必要な沿線になるための施策を持っているか。

 そういう準備をしないで「JRが輸送密度を出してきた」「廃止前提のテーブルには付かない」などと反発する。無策でいる間に、廃止の話はどんどん進む。「沿線自治体に策ナシ」という結果だけ残り廃止決定。第三セクターにできるか、バス転換かという話で慌てる。結果は鉄道路線廃止である。そんな事例が国鉄時代から繰り返されてきた。

 まず議論すべきは「鉄道が必要か否か」であって「誰が事業主体であるか」はその次の話だ。自治体が鉄道か必要だと訴え、国土交通省を説得する。では存続させるにはどうするか。JRが「手放したい」という立場を崩さないならば、公的な支援の枠組みが必要だ。新たな事業主体をつくる協議に入る。

 第三セクターか、自治体運営か。沿線の土地の無償譲渡や開発を条件に民間企業に依頼するか。そのなかでBRT(Bus Rapid Transit、バス高速輸送システム)、LRT(Light Rail Transit、軽量軌道交通)も検討材料になるだろう。国土交通省も「鉄道を辞めなさい」と説得に来たわけではない。持続可能な鉄道路線や地域活性化計画に納得すれば、支援制度の用意がある。

 その話し合いの時に「鉄道路線の価値は輸送密度だけが指標でいいのか」を論じてほしい。鉄道があることで、観光客を呼べるか。地域全体にどんな経済効果があるか。鉄道事業の決算書に現れない評価基準が必要だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.