赤字ローカル線存廃問題 「輸送密度」だけで足切りするな杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/8 ページ)

» 2022年03月20日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 細かく区間を分けて集計すると、混雑区間と閑散区間の差が見えてくる。例えば、JR西日本が公開した資料を比較すると、島根県の木次線について、19年度の輸送密度は190人/日。20年度の輸送密度は133人/日だ。

 外出自粛、観光自粛で数字は下がっている。ただし、20年の資料は区間ごとの数字を出している。起点の宍道駅〜出雲横田駅間は198人/日、出雲横田駅〜備後落合駅間は18人/日。

 つまり、木次線全体の輸送密度を下げている区間は出雲横田駅〜備後落合駅間ですよ、と見せた。輸送密度を公開するとき、区間の明細を出したら要注意だ。

JR西日本が公開している平均通過人員(輸送密度と同じ意味)のデータ。木次線の項に注目。19年度は全線の輸送密度のみ。20年度は区間を割って輸送密度の少ない区間を際立たせている

 時間ごと、曜日ごとの偏りも輸送密度からは分からない。輸送密度が2000人/日で距離が10キロメートルの「路線A」は、実態として「全区間乗車して通学する高校生しか乗らない」とする。乗車日は平日に偏る。文科省の資料などを参照すると、高校生の年間授業日数は平均200日だという。だから実態としては人キロを365ではなく200で割った方が現実的だ。

 2000(人/日)×10(キロメートル)×365(日)=730万(人キロ)

 これを営業日数200日とする。

 730万(人キロ)÷10(キロメートル)÷200(日)=3650(人/日)

 となる。

 1日当たりの利用者は3650人だ。通学は往復だから、片道1825人の通学生が列車に乗る。鉄道車両はローカル線向け中型車で定員110名程度。混雑率180%として198人乗れる。片方向で通学時間帯に1825人が移動するとなれば、198人で割って10両が必要だ。4両編成で片道3本の列車を必要とする。5両編成であれば2本で済む。

 路線バスの定員は60名という。本当に60人乗ったらいっぱいになってしまうから混雑率は関係ない。片道1825人の輸送量を定員60名ので賄うと31台も必要になる。実数としての31台ではなく、10台でピストン輸送して6往復+1台。路線Aをバス転換したら、鉄道の並行道路に延べ61台のバスが走り回る。

 平行道路が片側1車線なら、通勤マイカーとの混合交通で渋滞間違いなし。仮定の上塗りでいえば、緊急車両はこの時間帯に速度を出せない。例えば、ボヤで済む火事は全焼に、助かるはずの病人やけが人は死亡する。これはちょっとあおりすぎか。

 これでも、輸送密度2000人/日、10キロメートルのローカル路線は役に立ちませんか。不要ですか。

 そういう議論をしなくていけない。

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