赤字ローカル線存廃問題 「輸送密度」だけで足切りするな杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/8 ページ)

» 2022年03月20日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

「混雑率」と同じ違和感

 指標が実態と違う。この感覚は、大都市で通勤する人なら「混雑率」で理解していただけると思う。通勤電車の混雑率は高度成長時代に300%以上だった。鉄道事業者の設備投資が進み、国土交通省の目標は180%とされた。

 JRも大手私鉄も180%を目指して増発、増結を続けてきた。小田急電鉄が複々線化で混雑率を大きく改善したという発表も記憶に新しい。

 しかし実態は違う。混雑率180%を達成したという路線に乗っても、「急行電車はギュウギュウ詰め」「各駅停車は空いている」「電車の前方は混んでいて、後方は空いている」である。

 理由は簡単で、混雑率は「通勤時間帯の全利用者数」を「電車の定員」で単純に割っただけだから。運行種別や乗車位置の混雑度は反映されない。

国土交通省が参考として挙げる「混雑率」の目安。ほとんどの通勤路線が180%以下というけれど、実際は急行電車が200%以上、各駅停車が100%という印象ではないか

 これと同じ現象が「輸送密度」にも起きている。JR西日本の芸備線は広島県の広島駅と岡山県の備中神代駅を結ぶ。距離は159.1キロメートル。20年度の輸送密度は1140人/日。JR西日本が廃止したい基準の2000人/日以下だ。

 しかし区間ごとに分けると、広島駅〜下深川駅間14.2キロメートルは8444人/日で、北陸新幹線のJR西日本区間、上越妙高駅〜金沢駅間の8224人/日より多い。一方、山間部の東城駅〜備後落合駅間は25.8キロメートルで9人/日だ。

芸備線は20年度の輸送密度が1440人/日。しかし区間ごとの輸送密度に差が大きい(国土地理院地図をもとに筆者作成)

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