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「iモードがなければスマホは誕生しなかった」――KADOKAWA夏野剛社長が語る「日本の経営者にいま必要なもの」とは?ニコニコ超会議を前に(4/5 ページ)

» 2022年04月29日 05時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

iモードは自分が欲しいものを作った

――若者に対するソリューションサービスを提供していくという点では、今回のISTへの出資もニコニコ超会議もN高の取り組みも全てつながっているわけですね。iモードの時もそれは変わっていないのでしょうか。

 iモードはまさに自分が欲しいものを作った。当時の技術だからあそこまでしかいかなかった。技術がないから、1999年にはスマホを出せなかったわけです。当時PDAっていう小型の端末があったんですけど、このPDAとPHSをくっつけるとスマホに近いものができたと思うんですが、当時はこの2つをくっつけてもそんな小さくならなかったんですよ。実際に出してみたけど、全然売れなかった。だから2008年まで待たないとスマホはやっぱり作れなかった。部品が揃(そろ)わなかったんですね。

――やはり日本のガラケーは10年早かったわけですか。

エリック・シュミット氏(Wikipediaより)

 でも、10年早く日本人だけは携帯からインターネットに接続できていたわけです。「そのあとスマホにやられて〜」という人もいますが、iモードがなければ、スマホは誕生しなかったと言っても過言ではないんです。現に、僕はGoogleの元CEOのエリック・シュミットに「iモードがなかったらAndroidのスマホを自分たちで作ろうと思わなかった」とはっきり言われたことがあります。

 もっと言うと、GoogleがAndroid OSを開発する前に相談も受けました。その際に、「こんなに携帯からGoogle検索がされるとは誰も思わなかった」とも言っていたんですね。

――なるほど! にもかかわらず、当時は日本以外、海外の携帯端末のシェアを持っていた例えばノキアやモトローラは、iモードの動きにそこまで追随していませんでした。 

 「『そんなの日本だけの現象だ』と言って乗ってくれない」と、エリック・シュミットもボヤいていました。その原因は何かというと、彼らの分析ではソフトの開発が高すぎるというのが結論でした。だから、自分たちでソフトとOSを全部作って、それを無償で提供したら世界中が日本みたいな状況になるんじゃないかという話だったんですね。

――まさに、iモードは今のスマートフォンのビジネスモデルだったんですね。

 そうなんですよ。Androidだけでなく、同じことをiPhoneの開発チームの人からも良く言われます。iPhoneやiOSを開発する際に、徹底的にiモードを研究したと。だから、「あなたがミスター夏野か」とよくいわれます。だから、日本はガラケーのせいでスマホに遅れたわけじゃない。メーカーが自由に作れるのに作らなかったのが原因なんです。

――堀江さんは、民間ロケット開発の世界でも、「オールドスペース」という国主導のクローズドな技術からオープンになり、民間に広がったことで一気に技術革新が広がると訴えています。その根拠に、UNIXという有償のOSからLinuxという無償のOSが広まったことで、一気にインターネットが民主化したコンピュータの歴史を以前も教えてもらいました。

 そういう意味では、Androidと同じような広まりが起こる可能性があるから、ホリエモンの会社をすごく応援しています。でも、同じことはオールドスペースの会社がうまく転換することでも、対応ができるはずなんです。やはりそこは、産業構造の問題ではなく、経営者の問題だと思います。自動車産業におけるEV(電気自動車)も、同じことが起きていると思いますね。

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