立花党首は「(参院選比例区の場合)政見放送では17分間話すことができる。テレビ局の広告費相場で考えると、どんなに安くても2億円はかかる計算。それが選挙になると、公費負担で2億円分の広告を打てる。選挙の費用対効果は抜群」と強調。立花党首が「プラス収支」としたのはこうした背景からだ。
「成績が悪い生徒を有名校に合格させるには塾・予備校代が別途必要といわれている。優秀な生徒は費用をかけなくても、自主的に勉強して合格するのと同様に、能力がない人に課金して、無理やり当選させようとするからお金がかかるのではないか」(立花党首)
ただ「いくら広告を出しても、商品がよくないと売れない」と立花党首。企業でいう商品は、政党の場合、公約を指すが、N党は徹底的に合理性を重視した。今回の参院選で主に掲げたのは、年金受給者のNHK受信料無料化だ。
N党は選挙公報で「生活保護受給者は受信料無料なのに、年金受給者が支払い義務があるのはおかしい」と指摘。「受信料支払いは任意。支払い義務はない」とし、受信料の支払い拒否の方法の指南とともに投票を呼び掛けた。公報には「支払い拒否でNHK側と裁判になった際の費用も党が負担する」とも記載した。
一見すると、「議席が1議席しかない政党に実現できるのか」と思われる。だが、政党要件を満たすことで得られる政党助成金で裁判費用を賄い、直接救済するとともに、支払い拒否の方法を指南することで事実上、年金受給者の受信料無料化を実現するというロジックが実は隠されていた。
「公約や演説で『国民生活は困窮している』と言いながら、一部政党は支持者に寄付やカンパなどでお金を要求している。それに違和感があった。政治は弱者救済が目的だ。NHK受信料は弱者が最も困っていることの1つなので、合理性ある公約を掲げ、選挙でしっかり稼いで弱者に還元するという点を訴えることに注力した」(立花党首)
こうした緻密な選挙戦略を実行し、議席を得るには立候補者の存在が重要となる。そこでN党が“切り札”として目を付けたのが、東谷さんだった。
企業も、商品の企画や販売戦略を立案し、販売促進に向け、芸能人などをイメージキャラクターとして起用することが多い。N党の場合、東谷さんがそれに近い存在だったといえるだろう。
東谷さんは長年、裏方として芸能人・著名人の接待などを担当。芸能界で活動する中で得た、さまざまなエピソードをYouTube上で実名告発するスタイルの“暴露系ユーチューバー”「ガーシー」として、当時、注目を集めていた。
2月のYouTubeチャンネル開設と初投稿から約50日で登録者数は100万人を突破し、投稿動画は毎回100万再生以上を記録。週刊新潮の報道によると、月収は約2500万円に上るという。
元々、自らが起こした詐欺事件の被害者への費用弁済のため、ユーチューバーとしての活動を始めていた東谷さん。このため、活動内容には賛否が分かれていた。国民が納めた税金から政党交付金を得ている国政政党ならなおさらだ。
最近では芸能人だけでなく、楽天グループの三木谷浩史社長や木原誠二官房副長官など政財界の重要人物に関する暴露でも物議を醸した。そんな問題ある人間と分かった上で、立花党首はドバイに足を運び、東谷さんを直接口説き落とした。
賛否両論ありながらも、東谷さんはオンラインでの演説のみで、最終的に比例で初当選を果たした。NHKの参院選特設サイトによると28万7714票を集めたという。
立花党首は「ガーシーが持つポテンシャル、党にもたらす票数もある程度見込んで擁立した」と説明。事前の予測段階で「9割の確率で当選するだろうと思っていた」という。
当選の要因については「彼が言っていることはハチャメチャなことがある」としつつ「今の世の中を改革してほしいという人がいることの裏返し。既存のものを壊して、一度作り直してほしいということ。小手先の改革ではなく、一種の革命に近いものを求める人が増えてきているということだ。そういう層にガーシーが刺さっているのではないか」と分析している。
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