またKDDIは本来、合併3社の携帯電話事業で最大勢力であった旧DDIの経営母体である京セラが、合併当初からリーダーシップをとれば問題がなかったのですが、旧KDDが元政府系で国際電話事業を専業とする特殊法人であったが故に、人材的に優秀な人間が多く、京セラ勢が確固たるリーダーシップをとれなかったという恨みがその根底に存在しているようにも思います。
この点は、みずほ銀行における政府系由来の政策金融機関でエリート人材が多い日本興業銀行の存在と酷似しているということも、付け加えておきます。
余談ですが、世間の一部技術者を中心として7月3日の段階での高橋社長の会見が、社長自身が技術担当役員に頼ることなく専門用語を駆使して想定される障害発生のメカニズムを説明した「神会見」であったと評判になっていた点ですが、ある意味では同社のマネジメントの別の一面を映し出したとも言えます。
技術系で専門知識に明るすぎる経営者は、むしろリーダーとしてのマネジメント力の弱さを疑ってしかるべき、と数多くの経営者を見てきた筆者個人の経験からは感じるところでもあるからです。
このような組織風土のKDDIに、今後再び大障害が起きてしまったらどうなるのでしょう。みずほ銀行を見れば分かるように、確固たる主導権者不在の合併企業ゆえ「言うべきことを言わない、言われたことしかしない」組織は、何度同じことが起きても同じような結果が待っているのではないかと思わざるを得ないところです。
今回の件が引き金となり、高橋社長が結果的に退任を余儀なくされるのか否かは不明です。しかし、今後、KDDIがみずほ銀行と同じ轍を踏まないために、時期はともかく高橋社長の後任には、京セラ、トヨタに関わらず、あるいは技術的に優秀であるか否かに関わらず、確固たる経営の主導権を握って有事でもぶれない決断力に優れたリーダーを据えることに尽きるのではないでしょうか。
KDDIで今後も主導権者不在のマネジメントが続き再び同じような大障害が起きるなら、契約者の奪い合いが続く携帯業界で同社は、一転して落ちこぼれ的存在になってしまうかもしれません。
KDDIは通信障害の再発防止だけでなく、今回の組織風土に起因する有事対応のまずさについても、重大な危機感をもって再発防止に取り組む必要があるでしょう。
株式会社スタジオ02 代表取締役
横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。
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