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比類なきパナソニック起業制度 よくある社内ベンチャー募集と何が違うのか本田雅一の時事想々(2/5 ページ)

» 2022年09月06日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

大企業の枠を飛び越えて、どこまで起業家が生まれるか?

 大企業のオープンイノベーションを生む取り組みの先例には、ソニーのSAP(Startup Accelaration Program)がある。このプログラムはいくつもの新規事業プロジェクトを生み出し、現在は独立した事業部にまで発展している。

 その中にはブランドとして定着したソニーのスマートウォッチ「wena」など成功事例もいくつか散見される。SAPの本格始動が始まった際、当時ソニー社長だった平井一夫氏は、社内のエンジニアが「自分たちも何か新しいことができる」と社内の空気が変化したと話していた。

 ソニーのSAPは大企業の中に小さなスタートアップを内包させたものだが、BeeEdgeはさらに一歩踏み込んだ形で、社員の独立を促す起業支援だ。大企業の枠を飛び越えて、どこまで起業家が生まれるのかは未知数だった。

 しかし実際にBeeEdgeを通じて巣立ったベンチャー起業家だけではなく、パナソニック本体にも大きな影響を与え、社内の空気を変え、そして外部人材採用において大きなプラスにもなっていると、パナソニック取締役も兼任するようになったBeeEdge社長の春田氏は話す。

BeeEdge春田真代表取締役社長(画像提供:BeeEdge)

独立により「顧客との向き合い方も変化」

 パナソニックにはBeeEdge設立する以前から取り組んでいるオープンイノベーションの取り組みがある。Game Changer Catapult(GCC)と呼ばれるもので、社内コンペを通過して生き残れば、実際に製品開発の予算とリソースが割り当てられて商品を作るところまでを会社側がサポートするというものだ。

 春田氏は「GCCは結局、ビジコン(事業提案コンテスト)の延長です。自分自身の足で立つ(=事業として独立できる環境の構築をする)ことができなくとも、周りを納得させ『いいね』と言ってもらえれば成立する。

 でもBeeEdgeを通じて独立するとなると、顧客との向き合い方も変化します。パナソニックから籍は抜けますが、関係性は保たれます。パナソニック社内の人的リソースともつながりがあるため、事業立ち上げをスムーズに行えるのは大きな利点です」と、従来の取り組みとの違いについて話す。

 ソフトウェア、ネットワークサービスを軸にしたスタートアップとは異なり、ハードウェア開発は開発期間が長く、生産から流通にかけてのノウハウも必要だ。パナソニックと近い距離で独立起業できることは大きな利点と言えるだろう。

 実際にBeeEdgeを通じて起業したベンチャーの情報が知られるようになると、パナソニック社内の空気は大きく変わった。また新規採用の面でも「パナソニックでハードウェア事業について学び、人とのつながりを構築し、その上で独立を」と考える起業家予備軍からの注目を集めることになったと春田氏はいう。

 こうした経緯から、パナソニック自身が、BeeEdgeを通じた起業という道があることを、新卒採用時に訴求するようになったという。人材採用に向けたプロモーション手法にも変化をもたらしている。

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