クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新型エクストレイル 改革最終年に臨む日産(前編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2022年09月12日 11時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

ブランド価値向上をまずまず上手く進めている日産

 さて、こうした状況下で、自動車メーカーが自社のブランド価値を高めようと思うなら、早めの買い替えが、ユーザーに有利になるように環境を整え、3年か5年で確実に買い替えられるように、親身になって下取り価格を防衛することだ。現在の安全装備やADAS満載のクルマの価格は安くない。メーカーが価格防衛を意識しなければ、選ばれた人しか買えなくなる。

 そのためには、第一に新車の値引きをしないこと。そして3年から5年間を掛け、オーナーとディーラーが一緒になって極上のアプルーブド中古車を育て上げるくらいの覚悟で臨まなくてはならない。売ったクルマは客のクルマだが、同時にやがて仕入れる中古車なのだ。

 当然メインテナンスパックを活用して、定期整備を行き届かせ、下取り車のコンディションを保ち、整備記録簿がしっかり整った状態にすることも含まれる。小傷の修理などもこまめにできるようにするべきだ。一例として、マツダの自社保険「スカイプラス」では、年に1度等級をプロテクトされたまま、5万円(自己負担5000円)までの板金修理が受けられる。これは世間のポイント制度と同じで、その期限内に使わなければ権利が失われる設計なので、年に1度は小傷の修理を促せる。「お金がかかるから我慢しようか」程度の傷を放置させない戦略である。タイミングを見て、そこで、しっかりプッシュしてコンディションを維持してもらうのがディーラーの仕事である。そのクルマはやがて商品になって戻って来る。そのクオリティコントロールに執着できるかどうかが問われている。

 そもそも傷の目立つコンディションの悪いクルマが街中を走り回るのはブランドのイメージダウンにもなるし、下取りには外観は極めて重要だ。クルマが良いコンディションに保たれたまま下取りに出れば、メーカーはアプルーブド中古車として、もう一度利益を生み出せる。そして高年式中古車販売は、次の新車販売へとつながる。そういうサイクルに入れば、顧客にとってもメーカーにとっても万々歳である。だから顧客の所有車の価値を維持することは自動車メーカーにとってとても大事なのだ。そして、まだまだ工夫の余地はあるものの、日産はこのブランド価値向上を今の所まずまず上手く進めているといえる。

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