このようなファンド株主に気を遣いながら経営の舵取りをする様は、業種や規模は全く異なりますが、あの東芝をも連想させられます。東芝は相次ぐ経営不祥事による大赤字で上場廃止の危機に立たされた折に、外資ファンドのアクティビストたちを新たな株主として迎え入れたことで、常にファンド株主の顔色うかがう経営への転換を余儀なくされ、現在もなお迷走状態が続いています。
長期的な発展を願う企業経営の利害と短期的な利益を追求するファンド株主の利害は必ずしも一致しないものであり、ファンドの要望にまんま従うことが一般株主や利用者にとってマイナスにはたらくことも間々あるのです。
度重なる「事件」の発生と、行政側からの厳格な指摘や指導を受けながらも、トップが会見を開いて謝罪および説明をするという姿勢すら見せなかったのは、大株主であるファンドには気を遣いながらも利用者のことは軽くみているような経営姿勢の表れなのではないかとも思われます。
さらに申し上げればスシローの一連の「事件」は、プロ経営者の増収至上主義による利用者軽視の姿勢から、起きるべくして起きたものではなかったのか、とすら思えてくるのです。
相次いだ「事件」はスシローの業績にも大きな影響を及ぼしています。7月の各社売上をみてみると、コロナ第7波の影響下で苦しい状況にありながらも、くら寿司が前年同月比1.3%増、元気寿司が同3.3%増、カッパ・クリエイトは同1.1%増と各社ともギリギリ前年比増を確保している一方で、業界トップのスシローだけが10.2%減と、唯一前年比で2桁減少に転じてしまっているのです。目先の業績に陰りが見えれば、ファンド系大株主は黙ってはいないでしょう(かっぱ寿司の事件以降、一人負けは解消されそうですが)。
「事件」が起きる→業績が落ちる→ファンド株主の目が気になる→増収至上主義で顧客軽視になる→「事件」が再び起きる......。スシローの信頼回復に向けては、そんな無限のマイナスループにはまる前に、数字づくりよりも本業を大切にして顧客サービス第一を貫ける経営者による経営姿勢の抜本的見直しが必要なのではないでしょうか。
逮捕者を出すような完全なコンプライス違反を起こしたかっぱ寿司とは状況は異なりますが、経営姿勢に大きな課題を抱え問題が表面化したという点では全く同じです。猛省なくして業界トップ企業としてのブランド復建に向けた道のりは、険しいと考えます。
株式会社スタジオ02 代表取締役
横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。
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