こうした流れの中、近年の職場環境改善のキーワードの一つになってきたのが「心理的安全性」だ。「自分の意見を気兼ねなく発信できる」「批判的なコミュニケーションを恐れず自分の意思を開示できる」「失敗をしても大丈夫だと感じられる」――そんな職場が心理的安全性の高い職場である。
ビッグテック企業が注目し、ハーバードビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が体系化した「心理的安全性」は、人材が活躍しイノベーションが起こる職場の条件として広く知られている。
しかし、筆者が実施した日本の大企業の若手調査から、「心理的安全性が高いだけの職場では若手が十分に活躍できていない」ことが分かってきた。
リクルートワークス研究所が実施した調査からは、大企業の若手社員の仕事への熱量の度合い=「ワーク・エンゲージメント」の高低と関係する要素として、2つの要素が存在していることが明らかになった(図表1)。
一つは、「心理的安全性」だ。図表1からも、心理的安全性の認識が新入社員のワーク・エンゲージメントにプラスの影響を与えていることが分かる。この点に異議を唱える方は少ないだろう。
ただ、もう一つの要素が存在していることがポイントだ。心理的安全性と同様に新入社員のワーク・エンゲージメントにプラスの影響を与えるものとして「キャリア安全性」とも言える要素が存在していた。
キャリア安全性については、下記3項目の逆数を用いて把握した。
つまり、この3項目に対して「そう思わない」度合いの高さである。時間が経過したとき、労働市場のなかで、友人・知人と比べて、といった俯瞰(ふかん)したメタ認知で、「今の職場で働き続けることで、自身のキャリアが持続可能で安全な状態でいられると認識している」のかどうかを捉える尺度だ。「その職場で働いていて、自分のキャリアの選択権を持ち続けられるか」と言い換えられるかもしれない。職場に対するこの認識を「職場のキャリア安全性」と呼ぶ。
このキャリア安全性は若手社員のワーク・エンゲージメントに強いプラスの影響を与えている。その職場でキャリアを築きたいと思われなければ、心から仕事に打ち込むことは難しいのだ。
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