「心理的安全性」が高い大企業で、若手の早期離職が加速する皮肉 足りないのは何?若手のキャリア形成に課題(4/4 ページ)

» 2022年11月17日 08時00分 公開
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漠然とした不安と戦う若者に、「キャリアの安全」を提供できるか

 今回提示したとおり、ゆるい職場の時代には心理的安全性が高いだけでは若手が成長し活躍する職場が形成できない状況にある。そこにはもう一つのピースである「キャリア安全性」が必要であった。

 「いまの会社、居心地はとても良いんです」「良い上司や先輩ばかりでありがたい。感謝しかない」「理不尽な指導なんて受けたことも見たこともないですね」――若手社会人がこんな話をしたあとに決まって、「でも……」と現在の職場で働き続けることへの強い不安を口にするのを何度も何度も見てきた。

 いまの会社組織は、この若者たちの「漠然とした不安」をどこまで捉えきれているだろうか。自社の職場の心理的安全性を高めるだけでなく、キャリア安全性の高い空間にするための手を打たなければ、現在直面している「なぜ若手が辞めていくのか」という問題に解決策を見出すことは難しい。

 背景には、企業が若手に職業人生の見通しを提供できなくなったことがあるだろう。「あがり」の見えないすごろくになった自分の職業人生に、企業に代わって見通しを立てることができるのは自分自身だけだ。自分の職業人生を彩り豊かにつくる、その一つの材料として自社での仕事を考えたときに、心理的安全性が高いだけでは不安になってしまう。その背後に潜む重要なファクターであるキャリア安全性と組み合わせて初めて、若手が本当に活躍する新しい職場に生まれ変わるのだ。

著者紹介:古屋星斗(ふるや・しょうと)

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リクルートワークス研究所主任研究員。2011年一橋大学大学院 社会学研究科修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わり、2017年より現職。労働市場の分析するとともに、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。近著に「ゆるい職場−若者の不安の知られざる理由」(中央公論新社)。


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