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2022年10月26日、厚生労働省の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)分科会が、給与をデジタルマネーで支払う制度の導入を盛り込んだ労働基準法の省令改正案を了承しました。これにより、23年4月から労働者側の同意がある場合などに限り、企業側はデジタルマネーでの給与の支払いが可能になります。なお、支払先のアプリの口座残高は上限100万円です。
企業が銀行の口座を介さず、スマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して振り込むことができる制度である「給与デジタル払い」。この解禁は人事担当者にどのような影響を与え、また導入する場合はどのように備えていく必要があるのでしょうか。
本記事では、給与デジタル払いの基本やメリット・デメリット、実際に取り入れる場合の方法などを解説します。
給与のデジタル払いとは、企業が銀行の口座を介さず、スマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して振り込むことができる制度のこと。厚生労働省が中心となり、制度を推進してきました。
今まで、給与は通貨による支払いを原則としていましたが、QRコードを利用したキャッシュレス決済が広まる時代に合わせ、デジタル化の動きが加速しています。
厚生労働省は、なぜ給与のデジタル払いを推進しようとしているのでしょうか。その理由として、下記の4点が挙げられます。
※厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払について」より
このように、給与のデジタル払いを推進することで、外国人労働者の受け入れや金融サービス市場の拡大、規制緩和といった複合的な課題の解消や成長促進を図れると説明しています。
各企業で給与デジタル払いを実施する場合、どのような仕組み・方法で運用することになるのでしょうか。必要なことは、下記の4点です。
具体的に想定されうる給与デジタル払いの構成は、下記のフローとなります。
各企業が直接コード決済、電子マネー運営業者と連携することは現実的ではありません。そのため、中間に「給与データからコード決済や電子マネー用のデータへの変換」と、「各運営会社へのデータ連携」をするための事業会社が参画し、システムを導入する必要があります。
給与のデジタル払いを実施すると、企業や従業員にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
外国人労働者のような銀行口座開設へのハードルが高い従業員への給与支給方法として、デジタル払いという選択肢が広がります。
ただし、コロナ禍において、新規の外国人労働者の受け入れが大きく減退している状況があるため、ニーズは低下している可能性があります。
「給与のうち、一定額はQRコード決済や電子マネーでの支給を可能としてほしい」というニーズが一定数あるため、給与のデジタル払いを選択肢として用意することは、企業の福利厚生の一環とすることが可能でしょう。
また、QRコード決済や電子マネー決済が促進されると、キャッシュバックやポイント還元といった具体的なメリットが拡大することにもつながります。
今後、各運営会社が給与のデジタル払いに合わせたポイント還元などのキャンペーンを実施するのであれば、従業員(場合によっては企業)側もメリットが得られる機会が増える可能性があります。
従業員に複数口座への給与振込を認めている場合、メイン口座以外の口座への振り込みがデジタル化されれば、その分の振込手数料の削減につなげられます。
給与のデジタル払いを許可・促進するという企業の姿勢は、社会の変化や多様性を理解し、重視するという企業メッセージを内外に与える効果があると考えられます。そして結果的に、採用面や従業員のエンゲージメントの観点でプラスの効果が期待できます。
前項のように多くのメリットがある一方で、デメリットや運用リスクもあります。
QRコード決済や電子マネーが普及してきましたが、公共料金の引き落としなど、電子決済に未対応のものも多くあります。そのため、現金化や銀行口座への振り込みなどの手間がかかります。
ただ、デジタル給与払いの解禁に伴い、今後対応していくものも増える可能性があるので今後の動向に注目です。
資金移動業者への振り込みには現在100万円の上限が設定されています。そのため、デジタル給与払いが利用できないケースがあります。
「給与の一部をデジタルで支給してほしい」という従業員は多くても、給与の全額をデジタル化することを希望する従業員はわずかでしょう。
従って、銀行口座・デジタル給与のキーといったデータの二重管理や、銀行振込データ・デジタル連携データの二重出力といったように、運用面での二重化が進んでしまいます。
給与のデジタル払いにおける連携については、そのキー情報を従業員から収集する必要があります。そのため、正当性をどのように担保するか、という課題が発生するでしょう。
銀行口座のデータであれば、銀行名や支店名、口座名義によってある程度は視認できますが、キー情報はそうした識別をすることが困難な可能性があります。
上記のポイントにより、中間連携システムにおいて、従業員からの情報をなるべく自動的に反映させるための仕組みが必要です。
ただし、自動連携化を進めれば進めるほど、既存の給与システムへの改修も必要となることが予想されます。結果的に、開発や運用のコストに跳ね返ってくるでしょう。
通常、業務のシステム化は、さまざまな利便性や効率化につながるものですが、給与デジタル払いは、これまでの運用がそのまま残った上に、追加のシステム構築が必要となります。
そのため、前項に記載したメリットのうち、定性的なメリット面が大きく評価されなければ、コスト面のデメリットが発生してしまい、実施につながらなくなるのではないでしょうか。
給与デジタル払いを少しずつでも進めたいということであれば、賞与の一部から先行的に実施する方法もよいかと思います。希望者は全社一律で3万円分のみといったように、決まった形でスタートすれば、混乱も少ないでしょう。
また、実際に企業の給与全体で実施する場合は、まず希望者の第2銀行口座、第3銀行口座で実施するという形になると考えられます。
以上を踏まえると、特に企業側は、メリットに比べてデメリットやリスクが大きいように感じられます。しかしながら、今後は社会全体でデジタル化が加速していくことは間違いありません。変化に対応するための仕組みを準備しておくことが大切です。
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