上述した現行の原子力の信頼性・安全性向上策に加えて、根本的に全く新しい原子炉SMR(Small Modular Reactor)の開発が、米国、英国、フランス、ロシア、中国、日本で進められている。
SMRの特徴は大きく4つある。1つ目の特徴は、安全システムのシンプル化・高信頼化だ。現行の原子炉の3分1から5分の1に小型化し、ポンプなどによる強制冷却から自然循環冷却に変更し、ヒューマンエラーと機器故障を回避する。
2つ目の特徴は、初期投資を縮小し、規格化された部材一式の工場生産・現地組み立てにより建設期間を従来の5〜7年から3年に短縮するというものだ。3つ目の特徴は、熱貯蔵や水素製造などの多目的利用を進めている点、4つ目の特徴は、軽水炉、高速炉、高温ガス炉などの多様な炉型を対象としている点だ。
米国のGEH社と日本の日立GE社が共同開発中のBWRX-300は、出力30万kWのBWRタイプで、(1)配管破断による冷却材喪失事故を排除、(2)電源喪失時に運転員操作なしで7日間冷却可能、(3)負荷変動への対応などの特徴を持つ。
21年12月にカナダ電力OPG(Ontario Power Generation)から受注し、Darlington原子力発電所に最大4基を建設、28年に初号機を完成する予定。また、カナダ電力Saskpowerでも、サスカチュワン州に最大4基を建設し34年に完成する予定となっている。
SMRは、炉内の核燃料が少なく事故時の放射性物質放出量が少ないこと、電源喪失時7日間の炉心冷却維持により緊急措置に余裕があることなどの固有の特性を持つことから、米国では、半径16キロの緊急時防護措置準備区域(EPZ、Emergency Planning Zone)を発電所敷地境界レベルまで縮小することを検討しており、これが実現するとSMRに対する社会的受容性の向上に寄与すると期待される。
GEH社とテラパワー社が共同開発中の「Natrium」は、高速炉タイプのSMRで、GEH社の小型モジュール式高速炉PRISMとテラパワー社の溶融塩エネルギー貯蔵システムを組み合わせたものである。
高速炉PRISMは、Naの高熱伝導率により全電源喪失時にも自然循環で除熱でき、長半減期核種である超ウラン元素(TRU)を炉心で燃焼消滅できる。原子炉本体の地下設置と免震装置採用により立地自由度が大きい。
電気出力は34.5万kWであるが、再エネの出力変動に対応してエネルギー貯蔵システムを使って最大5.5時間、50万kWの電力供給ができるようになっている。加えて、(1)原子炉建屋外部に非原子力の機械設備や電気機器を設置、(2)大半の設備は一般的な工業規格を採用。使用機器数を削減、(3)原子力品質のコンクリート使用量を大型炉比で80%削減──といった抜本的なコスト削減策を採用している。
21年6月に米ワイオミング州の石炭火力跡地に実証炉を建設し、28年に運転開始を目指すことが発表された。著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる世界最大の投資持株会社バークシャー・ハサウェイ傘下の電力会社Pacifi Corpと共同で建設する計画だ。
日本からは日本原子力開発機構(JAEA)と三菱重工業がテラパワー社と覚書を締結し、(1)高速炉(常陽、もんじゅ)の経験、ノウハウ、試験設備、(2)JAEA保有の大型ナトリウム試験設備 (AtheNa)、(3)日本企業が持つ機器設計・製造技術の3点で技術協力する。
テラパワー社は、ビル・ゲイツ氏が06年に創設した次世代型原子炉の研究開発企業で、同氏は原子力に対して下記の考えを表明している。
「原子力は、気候変動対策において理想的なエネルギー。事故のリスクは、イノベーションにより解決可能。テラパワーは、安全性が非常に高い第4世代原子炉を開発する。社会の認識を変えるには、劇的に違うものを出す必要がある。『Natrium』は、エネルギー産業のゲームチェンジャーになる」
過去50年以上にわたって蓄積してきた原子力の経験と技術、実証データをもとに、全く新しい原子炉SMRが20年代に開発・実用化され、次世代のエネルギー源として世界で貢献する流れになりつつある。
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