マーケティング・シンカ論

ユーザー調査の「使いたいと思います」を信じてはいけない、3つの理由グッドパッチとUXの話をしようか(3/5 ページ)

» 2024年01月17日 09時35分 公開

2.購入に必要な「前提条件」を忘れてはいけない

 先述のように、ユーザーが「使いたい(買いたい)」と思っても、そこからユーザーが実際買うまでには、さまざまな前提条件をクリアしなければなりません。

 例えば、10代前半でアルバイトをしていないユーザーや、結婚していて「お小遣い」という形で自由に使えるお金が制限されている場合。商品やサービスのジャンル、価格帯によっては、家族の了承を得ないと購入に至れない人もいるでしょう。

 この場合、市場規模から計算した予算値に対して「買うだろう」と答えた人が多くても、実際に売ると目標に達しません。

 ユーザーが「使いたい(買いたい)」と思ってから購入に至るまでの条件は「フォッグの消費者行動モデル」と呼ばれる概念で理解しておくことが有効です。このモデルでは、ユーザーが消費行動を起こすまでに必要な条件を「B=MAT」として表現しています。

ユーザーが消費行動を起こすまでに必要な条件「B=MAT」

 先ほどのお小遣いの例で説明すると、「M(Motivation)」があっても「A(Ability)」がなければ購入には至りません。この2つに加え「週末に行くキャンプに必要」「古くなってきたので買い換えようと思った」といった「T(Trigger)」までそろって、やっと購入に至るのです。

 コンセプトテストでは、「買うであろう」と回答したユーザーに「どんな状況で利用するイメージを持ったのか」まで聞いておくと、その後の売り上げ予測の精度を高められるでしょう。

3.多くの人が良いと言ったからといって「受容性がある」と判断してはいけない

 身も蓋もないですが、ここまで記載したとおり、コンセプトテストは本来「定量調査(アンケート)」より「定性調査(インタビュー)」の方がより多くの示唆を得られます。

 定量調査のメリットは「一度に多くの人の意見を聞けること」ですが、多くの人が「使う」といった商品の背景にあるニーズやペインはすでに顕在化しているもので、市場には他の商品やサービスが解決策として提供されている場合が多くあります。

 競合品との差が価格であったり、ちょっとした新規性である場合、すでに広がった市場からユーザーの意識を奪い、イノベーションと呼ばれる大ヒットにつなげるのは困難です。

 一方で、まだ解決されていない潜在ニーズを満たす解決策を生み出すためには、少数であっても強く課題を感じている人や、コンセプトへの共感度が高いユーザーの意見を深く聞いた方が、独自の解決策、つまりイノベーションを起こし得るサービスや商品の開発につなげやすいのです。

 例えば、クラウドファイルサービスの先駆者である「Dropbox」や、タクシー配車に革命を起こした「Uber」も、発案者は自分の困りごとを解決したいという一心でサービスのアイデアを磨き上げました。

「どこにでもUSBメモリを持ち歩くのが嫌になり、バスに乗るときでなければ洗濯機に入れるところだった。それは常に災害の一歩手前です。そして、ボストンからニューヨークへ移動中にサムドライブを忘れてしまい、仕事が手につかなくなり、ドロップボックスになるための最初のコード行を書き始めたのです(参照:founder)」

 これらの事例は、課題の持ち主が自分自身であったことから、課題の背景や本質的に何を解決すればよいかを深く理解していたため、最適かつ今までになかった解決策を考えることにつながったのではないでしょうか。

 とは言え、定性調査は定量調査に比べると時間もコストもかかりますし、上記の通りインタビューからユーザーのニーズを引き出し、正しい結果を導くには高いスキルが必要です。

 良いインタビュー調査をできる人が身近にいない場合、先ほど挙げた「6段階の選択肢」ではないですが、少し工夫することで、定量調査でも確度が高いユーザーの「欲しい」を捉えられます。

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