マーケティング・シンカ論

マーケ事例だけを学んでも“再現性”は高まらない 「筋の良い学習プロセス」を知るトライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(2/3 ページ)

» 2024年02月28日 08時30分 公開
[池田 紀行ITmedia]

ステップ3:全体像と構造を学ぶ

 ここまでで、マーケティングのダイナミックさとリアリティ、学習の失敗ルートを学びました。いよいよ本格的な学習を始めます。

 ここで重要になるのが、先に述べた「全体感」です。どこからどこまでがマーケティングなのか、全体感はどうなっているのか、売り上げをつくるためのマーケティングにはどんな変数があり、どのような因果構造になっているのかを「概観」するのです。

 ひとつひとつの解像度は粗くて構いません。まずは高所から俯瞰(ふかん)して全体を概観する。初動の段階で「面」を捉える地図を手に入れられるかどうかで、以降のステップで迷子にならず歩めるかが決まります。書籍なら(僭越ながら)拙著『売上の地図』(日経BP)が最適です。ここでマーケティング全体の「面」を掴んでください。

ステップ4:全体感と流れを学ぶ

 全体感を俯瞰する地図を手に入れたら、次に取り組むべきはマーケティングを「流れ」として掴む「線」の視点を手に入れることです。

 売り上げは、特定の施策が効いて上がるような単純なものではなく、複数の変数が構造的に影響を与え合って上下動します。自動販売機のようにボタンを押せば商品が出てくるようなものではなく、電子回路のように複数の機器が構造的な役割を果たすことで効果を発揮するイメージです。

 お客さまに買っていただくためには、認知されていて、興味を持ってもらえていて、商品の特長をある程度理解してもらえていて、好意度や信頼度が高く、一定の割合で思い出してもらえ、買いたいと思ったときに最適な価格ですぐ買える場所に商品が陳列されている必要があります。

 市況も顧客も競合も常に動的に変化する中でお客さまに選択していただくためには、個別施策の前に、お客さまの購入(=売り上げ)に至るルートが見えている必要があります。このマーケティングの主要な流れを掴むための書籍なら(これまた僭越ですが)拙著『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)が最適です。

 全体構造が見え、お客さまの購入までの流れ(主要ルート)さえ見えれば、あとはルート上に存在する個別障害物を乗り越えるのみです。

ステップ5:個別の手法や概念を学ぶ

 このステップでようやく個別の手法や概念を学びます。手法や概念とは、例えば「デジタルマーケティング」「SNSマーケティング」「コンテンツマーケティング」「SEO/SEM」「UX/UI」などを指します。手法や概念の選択や学ぶ順番は、あなたの実務上の課題感に沿って決めて問題ありません。

 ひとつだけ注意してほしいのは、できる限り法則・パターン・規則性などをまとめた一定の抽象度で整理された本を選ぶことです。「具体」や「事例」本は分かりやすいかもしれませんが、その分、再現性が低く賞味期限も短いため、個別手法や概念を学ぶ際も、ある程度抽象度が高い本を選択することをおすすめします。

ステップ6:個別理論を学ぶ

 この段階で個別理論をしっかりと学びます。前回の記事でも、再三にわたり「再現性高く成果を出し続けるマーケターは必ず理論を学んでいる」とお伝えしました。

 マーケティングの相手は人間ですから、マーケティングの目的は「人間の営みを科学し、再現可能性を高めること」と言い換えられることは先に述べました。そしてその人間の営みにおけるパターン、法則、規則性を過去数十年にわたって研究し、成功確率を上げ、失敗確率を下げ、マーケティングROIを最大化するために体系化されたものが「理論」です。

 現場で実行されるあらゆるマーケティング施策は理論の上に立脚しており、先人が数十年かけて構築してくれた「成功と失敗のパターン」や、守るべき「型」がここに凝縮されています。

 理論を学べばマーケティングで成果が出せるわけではありませんが、成果を出し続けているマーケターはすべからく理論を学んでいます。必ず実践的ノウハウだけでなく、そのベースとなる理論を学んでください。

 書籍なら、和田充夫・恩藏直人・三浦俊彦『マーケティング戦略〈第6版〉』(有斐閣アルマ)がおすすめです。少々難解に感じるかもしれませんが、(多くの人が読み切れる)マーケティングの理論書として本書以上に正確かつ高い網羅性でまとまっている本を私は知りません。

 そして本書読了後は、自身が担当する仕事や課題認識に沿って、消費者行動論、ブランド論、流通・店頭、価格、広告、広報PR、販売促進、心理学、社会心理学、行動経済学などについて専門の理論書を手に取っていけば良いと思います。

ステップ7:ケーススタディで学ぶ

 個別の手法や概念を学び、そのベースとなる個別の理論を学んだら、ケーススタディで解像度を高めましょう。

 このケーススタディも、個別手法や概念の学習同様、一定の抽象度で整理した教材がおすすめです。Web記事などで読める事例は分かりやすいですが、理論書にまとめられているケーススタディの方が「理論との接続」が最適化されているため、理論とケース(事例)がバラバラなままにならず、それぞれが「つながる」ことで「(頭で)理解」するだけでなく「(腹で)納得」できるはずです。

 書籍なら、グロービス経営大学院『〈改訂4版〉グロービスMBAマーケティング』がおすすめです。

ステップ8:全体理論を学ぶ

 最終仕上げは、全体理論の学習です。書籍なら、700ページを超えるコトラー&ケラー&チェルネフ『マーケティング・マネジメント』(丸善出版)ですが、正直全てのマーケターがここまで進むことが必須だとは思いません。

 もちろん、到達するに越したことはありませんが、それぞれが現場で担う領域やレベルに応じて、必要な論文などに当たる作業などでも良いと思います。大事なのは、個別も全体も、信頼性の高い理論を学ぶ姿勢を継続することです。

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