代わりに手に入ったメリットは、やはり「新幹線の快適さ」だ。サンダーバードに乗車したことがある人なら、最高速度130キロで快走する際の激しい横揺れや、横風やトンネル突入の際の「ズシン!」という衝撃を、体験したことがあるだろう。なお、同型の車両で越後湯沢駅〜金沢駅間を走行していた特急「はくたか」も、冬場はサンダーバード以上の揺れがあり、悪天候の日はノートPCをうかつに開けず、リスのようにビールを両手で抱えて飲むほどの乗り心地であった。
新幹線ならこういった揺れがほぼなく、静かだ。2015年に北陸新幹線「はくたか」(在来線特急と同一名称)が運行を開始した際も、地元紙が「走行中の車内で鉛筆が立つ(ほど揺れない)」「新幹線の騒音は63〜72デシベル、在来線特急はくたかは79デシベル」(体感の音量が2〜3分の1)という実験結果を公開している。これまでの在来線より新幹線「はくたか」が快適という口コミが、開業前と比較して3〜5倍に増加した。ビジネス・観光ともに、やはり「速達+快適」に勝る移動需要はない。
実際、2024年3月に金沢大学がとったアンケート結果によると、全体の7割が3月からの北陸〜関西の移動に不満を感じていた。一方、年齢層が高いほど「快適性」を求める声が強く、乗り換えや運賃アップに不満があっても北陸新幹線の積極的な利用を予定しているという。
敦賀開業後初めてとなるGWには、問題が発生してしまった。接続する特急列車・新幹線それぞれの遅れによって双方向の乗り換えが集中し、かなり広いはずの乗り換えスペースに乗り換え客があふれ、混乱が発生していた。
実際に2日間ほど観察していても、改札前で立ち止まって切符を確認する集団に後続の人々が足止めを食らったり、改札待ちのツアー客の方々が動線をふさいでいたり、かなり混乱した状況が見受けられた。この先、特急「サンダーバード」が経由する湖西線の遅延が常態化する冬場の乗り換えが懸念される。
GW後にJR西日本から各列車の利用状況が発表されたが、北陸新幹線・金沢駅〜福井駅間は延伸以前と比べて18%増加したのに対して、接続する特急「サンダーバード」(大阪方面)は前年比で90%、「しらさぎ」(名古屋方面)は同50%にとどまった。
もっとも「サンダーバード」は敦賀延伸とともに全席が指定席となったため、前年比並みの乗客数の確保が難しい状況であった(自由席だと通路やデッキまで立ち客で埋め尽くされる)。また「しらさぎ」は、福井県内から東海道新幹線で東京に向かっていた乗客が北陸新幹線経由に流れていると見られ、大幅な利用減少は予測できたことだ。
ただ、大阪方面に関しては、特急列車の座席を確保できなかった(実際に「みどりの券売機」やネット予約で見ても、満席で乗車できない状況が続いていた)こともあり、敦賀駅〜大阪方面で特急列車と同じ区間を走る「新快速」(予約不要だが、座席がそこまで快適でないので疲れる)に集中。通路まで一杯になる事態も見られた。
名古屋方面の接続に関しては、並行する高速バス(福井駅〜名古屋駅間)の利用者が前年度比で約1.4倍になるなど、他の交通機関へ転移する動きも見られる。乗客の減少、高速バスの利用増加などが「敦賀駅乗り換え」の影響であるかは、しばらく注視しなくてはいけないだろう。
多客時には、特急列車の遅れが乗り換えの混乱を招き、北陸新幹線の遅れにもつながるという問題が露呈した。湖西線が冬場に頻繁に遅延することを考えると、不安はかなり残る。
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