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なぜ日本の組織は「学び合わない」のか リスキリングを成功させる「コミュニティ・ラーニング」とは?(1/3 ページ)

» 2024年05月31日 08時30分 公開
[小林祐児ITmedia]

この記事は、パーソル総合研究所が2024年4月8日に掲載した「「学び合わない組織」のつくられ方」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


 今、社員のリスキリングについて取り組む企業の中で、学び合い続ける組織をいかにつくれるかが重要課題として改めて議論されている。それぞれのキャリアに合わせて選択的・自律的な学習をいかに促進しても、多くの企業で「笛吹けども踊らず」状態が続いている。いくら研修プログラムの改定を続けても、学び続ける組織を開発できなくては、いつまでたっても一部の従業員のための施策にしかならない。

 本コラムでは、「学び合わない組織」のつくられ方を探るとともに、いかにして「学び合う組織」を構築するかについてエビデンスを含めて紹介する。

上司が部下の学びに影響を与える

 すでにコラム「コソコソ学ぶ日本人――『学びの秘匿化』とは何か」で議論してきたように、就業者には「学びは新人のもの」「現場での経験だけが重要」といった学びを遠ざける「ラーニング・バイアス」が広く内面化されていることに加え、過半数以上の従業員が、学んだとしてもそれを周りに「秘匿」する習慣も広く存在する。これはつまり、e-learningや任意研修などをいかに拡充したところで、個人の学習意欲を向上させることも、組織内で水平的に「学習伝播(でんぱ)」することも少ないということだ。

 この、組織内の同僚という「ヨコの関係」に加えて、上司と部下という「タテの関係」も学びに関わってくる。部下(メンバー)の学びと上司のマネジメント行動を見ると、上司自身の学び行動が、部下の学習意欲・学習時間・学習共有にプラスの関連が見られている。例えば、上司が「仕事に関わる本をよく読んでいる」「いつも新しい知識やスキルを学んでいる」ということが部下に観察されている場合、部下もまた学んでいる可能性が増している。

図1:上司のマネジメント行動と部下の学び(出所:パーソル総合研究所「学び合う組織に関する定量調査」)

 その他にも、上司が成果ばかり追いかけるのではなく、仕事のプロセスや新たな提案などを重視する傾向もまた部下の学び意欲にプラスの関連が見られたが、最も総合的に影響を強く及ぼしているのは上述した上司自身の学び行動であった。

 さらに、上司自身の学び行動は部下の「学習共有」に関してもプラスの関係が見られ、学習行動を組織内に伝播させていくためにも上司の役割は大きいことが分かる。こうした結果を逆にいえば、上司が「学ばない姿」を見せている場合は、やはり部下も学ばず、学ばない上司に学びについて共有したり相談したりもしないということである。

図2:上司のマネジメント行動と部下の学びの関係(出所:パーソル総合研究所「学び合う組織に関する定量調査」)
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