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6500室を一斉開業 欧州最大ホテルチェーン幹部に聞く「国内リゾート進出の狙い」(2/3 ページ)

» 2024年09月04日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

各ブランドをローカルに展開する上での課題

――ガースCEOは、アジア太平洋地域を統括する立場として、この日本の観光市場をどのように見ていますか。

ガース: 日本の観光市場は非常に強いものと思っています。アジア全体で見ても、東南アジアなども含めて観光客数は伸びていて、中でも日本は非常に高いポジションにいます。日本ではインバウンドに目がいきがちですが、日本から海外旅行に行くアウトバウンドも伸びています。

 アジアではインバウンドとアウトバウンド双方が伸びていて、アジア市場の観光需要全体が伸びていくと考えています。

――アジア全体で観光業自体が伸びている要因は、コロナが明けた以外に何があるのでしょうか。

ガース: 経済成長が大きな要因だと思います。例えばインドは、いま世界で最も経済成長が速い国の一つで、観光市場の伸びにも期待しています。日本も円安であることから、アジアの中で価格の安さによって勝負できています。

 欧米も観光地としての魅力は根強いのですが、アジアは観光業界で今後の進展に期待が集まっています。

――アコーは世界110カ国で5700以上のホテルを展開している中で、現地の文化にアジャストしている部分もあると思います。一方フランス・パリを拠点とするホテルブランドとして、現地にブランドを浸透させていく部分もあると思います。このバランスについて、どう考えていますか。

ガース: アコーは、日本で「メルキュール」「グランドメルキュール」を中心に展開し、世界では45以上のブランドがあります。こうした中で、各個別のブランドの強みを浸透させていくことは大きな課題です。メルキュールは日本でも非常に認知度の高いブランドであり、グランドメルキュールはアジア全体でも強いブランドで、注力しています。

 一方で私たちは、ローカルの文化や慣習も大切にしています。やはりブランドを展開する上では、その場所に適したものでなければなりません。各ブランドをローカルに展開していくことで、それがいかにアコー全体の力を強めていけるのかを考えています。

――今回のようなリブランドは、リブランドされた側の従業員にとっても世界的ブランドの一員になれることで、キャリアアップと捉える人も多いようです。リブランドによる従業員教育についてはどのように考えていますか。

ダニエルズ: 実はアコーでは、全員が現場からキャリアアップしていくことで、経営層にも入れる仕組みになっています。かく言う私も、実はベルボーイからキャリアをスタートしました。

ガース: 私はオーストラリア出身なのですが、オーストラリアのホテルでルームサービスとして13歳から働いています。それが今ではアジアのトップになっています。

――海外の企業としては意外にも思われますが、叩き上げの社風なんですね。

ガース: 学校に通いながら皿洗いもしましたし、フィッシュアンドチップスの調理もしました。お酒が飲める年齢になってからは、バーでお酒の提供もしました。現場で働きながらどんどん上がっていったわけです。

ダニエルズ: 私は今でも皿洗いもしますし、レストランのスタッフもやっています。アコーでは、現場の優秀な人材をトップに上げられる仕組みがありますし、そのための育成プログラムも提供しています。働きながら大学や大学院で学位を取れる制度もあります。もちろん、これはリブランドによって、新しく加わる従業員も例外ではありません。 

 オンザジョブトレーニングをしながら、全員がキャリアのステップアップをできる環境がアコーにはあります。日本で働く従業員に対するキャリアパスをきちんと考えていきたいと思っています。

――働きながらMBAなどの学位を取得できるのは素晴らしいと思います。

ダニエルズ: 希望者全員とはいかないのですが、例えば総支配人になりたい従業員がいたら、その人の適性を見ながら学位を取れる制度があります。将来性のある人材に対しては、積極的に育成できるプログラムがあります。

――そう考えると、今回の日本の地方進出によって、企業としても新たな優秀な人材と出会える可能性があるという見方もできますね。

ダニエルズ: 日本にはとても優秀な従業員がたくさんいます。今回のリブランドのプロジェクトが始まり、2023年の7月から8月にかけて、私は全国を回って従業員全員と面談しました。日本法人のトップとして、どういった人材が新たに加わるか知りたかったためです。話をしていて感じたのは、すごく才能を持っている方たちが多いという印象でした。

 地方のホテルですので、地元を離れずに才能を生かしたいという考えの人もいます。しかし中には、単身赴任をしてでもキャリアをアップしたいという志向の人もいました。こうした地域の才能あるキャリア志向の人材と出会えることは、アコー全体の利益にもつながります。

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