米国を始めとした海外に訴求したい狙いは他にもある。
「外国人が和のテイストの衣装をかっこよく着ることができたら、逆輸入的に日本人にもその良さを知ってもらえるという狙いもあります。まずは米国から重点的に広め、世界展開していきたいと考えています」
今や日本を代表するアーティストであるHYDEが監修している以上、ファンの大勢を占める女性も主なターゲットにしている。国内向けではレディースの衣服をメインに扱う。商品開発をする上でHYDEはどのように関わっているのか。
「HYDEさんには何度も当社にお越しいただいて、衣装デザイナーも交えて打ち合わせをしています。もちろん、お任せいただいて進める部分もありますが、基本は細部まで協議しています。衣装作りは、HYDEさんが『自分も着たいけど、特に自分のファンに着てほしい和』をコンセプトにしています。いわば『HYDEが着せたい』アパレルブランドですね」
和をテイストにした服飾デザインを進めようとしても、小田章のような老舗呉服屋の立場からすると、どうしても着物の常識にとらわれてしまいがちな部分がある。こうした場面で、HYDEのアドバイスには、ハッと気付かされることがあるという。
「HYDEさんは『それいる?』といった形で、取捨選択の場面で的確な指摘をしてくださいます。どこかに和のコンセプトが入っていて、HYDEさん自身が自分で着たいと思うもの、そして女性ファンに『HYDEが着せたい』アパレルブランドを目指しています」
販売方法には、小田社長独自のこだわりがあると話す。
「私は古き良き呉服屋の伝統や、その時代の良さをあえて残していきたいと考えています。例えばポップアップストアを開くときも豪華な会場ではなく、アットホームな空間で、できるだけ細やかで親切な対応を心掛けています。和の心や文化を伝えられるように、原点に立ち返りながら試行錯誤していくつもりです」
10月15日に1周年を迎えたWaRLOCKの特別企画商品としてWebで販売した「きつねいどTEE」は数時間で完売した。小田社長は「数百枚の販売がありましたが、お一人ずつ手書きでお礼状を書いて封入しています。そういうことを丁寧にやっていきたいと思っています」と語る。
HYDEもWaRLOCKを自身のプロモーションに活用している。5〜6月に放送されたテレビアニメ『鬼滅の刃 柱稽古編』の主題歌「夢幻」を歌唱したテレビ番組「ミュージックステーション」ではWaRLOCKの衣装を着た。『鬼滅の刃』は、北米やアジアをはじめ世界中で人気を博していて、訴求力は抜群だ。
10月13日にはブルックリンでファッションショーに参加する他、12月4〜10日には日本橋三越本店でイベントを開催。日本橋三越本店は1673年創業で、江戸期の「越後屋」から続く呉服の権威だ。小田社長は意気込む。
「呉服の世界では、日本橋三越は一丁目一番地なので、身が引き締まります。しかし、WaRLOCKは呉服のフロアではなく、アパレルのフロアに出します。ここで初めて大々的にWaRLOCKを世界にアピールしていきます。呉服の一丁目一番地から和を進化させ、着物を進化させ、世界に一石を投じていきたいですね」
小田章が半世紀にわたり異業種タイアップを進めてきた中で、着物を着る人は少なくなり、業界はすっかり縮小した。HYDEとコラボすることによって、和装への関心を取り戻せるか。令和の時代に、日本文化の真価が試されようとしている。
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