孫氏が掲げる戦略の核心は、AI産業におけるプラットフォームの主導権を握るポジションを確立することにある。チップからインフラ、モデル、アプリケーションに至るまで、AIプラットフォームにかかわる産業の基盤を構築するための投資戦略を展開している状況だ。
まず計算能力では、2016年に約3.3兆円で買収したアームを中核に据える。アームは、スマートフォンや組み込み機器に不可欠な半導体設計図(IP)を提供する企業であり、累計チップ出荷数は3000億個超に達する。「世界中の携帯電話・スマホの99%近くはアームが1社で握りしめている」と孫氏が述べたように、圧倒的なマーケットシェアを誇る。同社の技術は今や、クラウド用途向けのチップでも存在感を高め、買収当初ゼロに等しかったクラウド向けシェアが「今年は世界中の50%を超える規模にまでマーケットシェアを伸ばしてきた」との実績が示す通り、成長の加速は著しい。
そのアームに加え、2024年には英Graphcore(グラフコア)を完全子会社化。さらに2025年には米Ampere Computing(アンペア・コンピューティング)を約65億ドルで買収すると発表した。これらの企業は、アームの技術をベースとしたチップの設計において、アーム自らが担う設計の「前工程」に対し、後半部分の設計開発や、製造部門やファウンドリへのデータ送付を担う「後工程」部分のノウハウを持つ。
インフラでも、Stargate Projectによって全米に巨大データセンターを展開する計画が動いている。AI時代に不可欠な計算能力を担うこの構想は、GAFAにも匹敵する規模と野心を備えている。
加えて、AIモデルの分野ではOpenAIとの連携が進む。未上場企業へ最大で4.8兆円という前例なき規模の投資を行う。また、AIアプリケーションの分野でもOpenAIと提携し、今年2月には企業向け最先端AIエージェント「Cristal intelligence(クリスタル・インテリジェンス)」の開発と提供に合意した。このサービスの提供により、業務の個別最適や業務の効率の改善にとどまらない企業の全体最適を目指していく。
「ASIの胴元」になるという孫氏の構想は、単なるテクノロジー戦略ではなく、競争のルールを自ら書き換えるための“構造支配”を見据えた大胆な挑戦なのである。
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