ANAと何かと比較されるJALにも、SFCと同様の会員制度である「JALグローバルクラブ」(JGC)が存在する。JALは、ANAと同時期にポイントを2倍にするキャンペーンを実施。「JGC修行」をする利用者も出るなどして、会員を増やしてきた。だが2024年4月、JALはANAに先行して、制度を変更した。
ANAとの大きな違いは、制度変更の際、既存のJGC会員に“配慮”したことだ。JALは「新規を絞って既存を守る」(既得権益の維持)という日本的な配慮によって、顧客との信頼をつなぎ止めた。対するANAは、既存客さえもカードの決済額によって一律に選別する「ドライな合理主義」に踏み切った形と言える。JALはラウンジや優先などのサービスが利用できるランクを既存会員に保証した一方、新規で会員になる基準を大幅に引き上げた。
会員増によるラウンジの混雑は、どの航空会社にとっても共通の課題だ。だが、ANAのSFCからJGCへの“大移動”が起きるかというと、すぐに移行しないと筆者は考える。もし利用者がJGC会員になろうとする場合、カード決済のみで総額約6000万円が必要となるからだ。それでも、JGCが生涯実績プログラムを維持している点を評価し、利用者からは「今後はJALを利用する」という声が続々と出ている。
JALは既存顧客の継続条件に手を付けなかったことで、信頼関係をそのまま維持した。一方、ANAはラウンジの混雑緩和の特効薬であっても、顧客との信頼関係、ロイヤルティ(忠誠心)を失いかねず、既存会員の解約が増えるのは確実だ。今後、利用者がJGCではなく、SFCを選ぶ動機となる施策も打てていない。
ANAホールディングスの株価は、昨今の中東情勢もあり、下がり続けている。特に、SFCの制度見直しを発表した4月23日、その下げ幅は大きく、年初来最安値となった。
今回の一件を「改良」と主張する利用者からは「ラウンジの混雑がやっと解消される」「特典航空券の予約がしやすくなる」「年間300万円すら決済できない人は分不相応」などの声も出ている。良質な顧客を選別する今回の見直しによって、顧客が離れるリスクが多少あったとしても、収益を上げる方向へ転換したのだと見ることもできる。企業としては優良顧客が残るため、健全とも言える。
だが、直近まで会員の特典をあおってから、いきなりはしごを外すような施策は、顧客が抱く企業イメージとして決して良いものでない。
ビジネスパーソンが中心だったステータスを一般客に広げる取り組みに、ANAも一役担ってきた。利益を追求する経営戦略としては正しくても「金の切れ目は縁の切れ目」と、ライト層のANA離れは進むことになるかもしれない。
合理性を突き詰めた先に待つのは、健全な収益か、それともブランドの空洞化か。ANAの真価が問われるのは、これからだ。
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