両社が議論を重ねる過程で、課題は「膨大な組み合わせの中から異動案を検討すること」と「多様な配慮事項を漏(も)れなく反映すること」の2点に整理された。また、それらの課題に対して人とシステムがそれぞれ担うべき役割も明確化していった。
そこで富士通は、複数のシステムやExcelに分散していたトラスコ中山の人事関連データを、富士通が提供するプラットフォーム上に集約し、一元管理できる環境を構築した。その上で、人事異動案の作成から修正までを支援するアプリを4カ月で開発した。
寺島氏は、アプリの特徴を「『数理最適化モデル』と『対話型AI』という、役割の異なる2つの技術で人事担当者をサポートする点です」と説明する。
まず、数理最適化モデルを用いて、プラットフォーム上に集約された、各部署の人員配置計画や社員のキャリアの希望、所属年数などの情報を基に、人事異動の初期案を作成。人力では比較しきれない膨大な選択肢の中から、各種条件を満たす配置案を算出し、たたき台となる初期案を提示する。
その初期案を踏まえ、人事担当者が最終案を作成するが、その過程において考慮漏れが生じたり、手動の調整によって当初の前提が崩れたりする可能性もある。そこで活躍するのが対話型AIだ。AIは、人事担当者が配置転換で重視してきた観点や確認項目を参照しながら、矛盾や見落としがあれば指摘する。また、人事担当者が初期案の配置を変更した場合、その変更による影響や追加で確認すべき配慮事項も提示する。
このような仕組みによって、人事異動案の作成に必要な計算や確認作業を効率化しながら、人事担当者は最終的な判断に注力できるようになった。
「私たちが目指したのは、膨大な計算は機械に任せて効率化し、人間的な配慮や最終判断はAIのサポートを得ながら人が行うという、AIと人間の協業スタイルです」(寺島氏)
なお、今回の仕組みでは過去の人事異動データをAIに学習させて異動先を提案させる手法は採用していない。寺島氏は「過去の人事異動データをそのまま学習させると、これまでの配置方針や担当者ごとの判断の癖までAIが引き継いでしまう可能性があります。そのため、現在の従業員情報や条件を基に配置案をゼロベースで組み立てる仕組みを採用しました」と説明する。
今回のアプリは、トラスコ中山のように定期的なジョブローテーション制度を採用している企業で特に効果を発揮すると期待される。加えて、寺島氏は「人員配置の最適化」という観点では、膨大な組み合わせの検討と多様な配慮事項への対応という課題は多くの企業に共通していると指摘する。今回の取り組みは、人事異動に限らず、人員配置の意思決定を支援する新たなモデルケースになるかもしれない。
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