チャレンジショップの審査を通過した二荒氏の事業計画書には、3つの特徴があった。差別化の核心は「ここでしか買えないもの」を作ること。「ただ単純に本を置きます、飲食をやりますでは、チャレンジショップの審査に通らないと思いました。『ここでしか買えない本を出します』と言ったら、差別化できると考えました」
「なぜここでなければならないのか」を一文で言える差別化の軸を持つことが、審査通過に向けた重要な条件だった。新規事業においても、競合との差別化軸を明確に言語化できるかどうかは、社内外の承認を得るための基本条件だ。
飲食の実績は、言葉でなく経歴で証明した。審査の面接では「どれくらいのメニューがありますか」という問いに、二荒氏は「無限に作れます」と即答したという。保育園の給食マネジャー、出張シェフとして、依頼先の食材だけで料理を作り続けた経験の積み重ねが、面接で迷いのない回答につながった。
そして、事業の社会性を示した。
「介護施設で働き、自分の親の介護もしていました。その経験から、(まだ自活できる)『要支援未満の人たち』を元気づけたいと思っていました。店を持って地域のインフラとして、(要支援未満の)行動力のあるシニアたちが集う店をやりたいという考えが根底にありました」
採算性と社会性の両立も、審査を通過するための重要な視点だ。社会貢献を重視する企業の新規事業評価においても、共通する観点といえる。
チャレンジショップの利用にかかる費用は、区画利用料が月額3万6300円で、水道光熱費(実費)と商店会費月額2000円が加わる。都内の一等地に月数万円で出店できる仕組みだ。
出店が決まった後も、支援は続く。出店期間中はコンサルタントによる経営改善・集客アドバイス、開業相談、卒業後の店舗開業に向けた支援まで実施する。毎月の売り上げ報告書を基にセット率(1人の顧客が複数の商品やメニューを同時に購入する比率)やカテゴリー別売り上げ比率を照合するのが基本だ。
月2回のコンサルタント訪問では、売り上げ報告書を基にメニューの料金や数字への指摘が入る。「一人だと判断が甘くなりがちなところを、コンサルタントに指摘してもらうことで、気を引き締めて経営に向き合うことができました」
二荒氏が「逆さ吊りにされて、ポケットから全部出すみたいな感じ」と表現する経営会議は、経営の実態を全て洗い出され、プロの目で仕分けてもらう場になっている。定期的な第三者によるレビューが、経営判断の質を高めるという。この構造は、企業における月次レポートや事業レビューの仕組みと同じ原理だ。
開業当初、メニューは買ってきた既製品と発酵茶だけで始める予定だった。コンサルタントに「日替わりメニューがないとリピーターさんが困るよね」と指摘を受けて、手作りメニューを増やした。ランチへの一品追加も「それをプラスすると赤字になる」と言われて、思いとどまったという。
SNS投稿の撮影技術指導、WebサイトのSEO対策、キャッシュレス決済の導入――東京都の支援リソースを横断的に活用することで、一人では対応しきれない経営課題を一つ一つ解消してきた。
「探検・冒険の本に特化した書店」という軸は、最初から決まっていた。そこで取った戦略が、1つのテーマから複数の収益を引き出す設計だ。単一の収益源への依存リスクを分散しながら、テーマの一貫性によって顧客との関係を深める――。この発想は、事業ポートフォリオの設計にも応用できる考え方だ。
書籍は新刊と古本を合わせて100冊以上を取りそろえ、関野氏やノンフィクション作家・高野秀行氏、写真家・石川直樹氏といった影響力のある著者のSNS投稿や対談内容を追いながら選書していく。
古書については古物商の許可を取得し、入手困難な希少本も取りそろえた。雑貨では店のオリジナルキャラクターをデザインした作家によるポストカードが人気だ。「店に立ち寄って、本を買わない方でもポストカードを買ってくれます」と話し、書籍とは異なる切り口で来店者の購買を引き出している。他にもクラフト雑貨やハチミツなどを販売し、売り上げ構成の11%を担う。
自社出版については、当初は関野氏の代表作である「グレートジャーニー」に関する著作の復刊を目指したものの、版権元との交渉が難航した。そこで別の著作『ぐうたら原始行』(山と溪谷社刊)に着目し、関野氏に提案。初版本の版元にも許諾を得て刊行し、クラウドファンディングを実施することで関野氏のファンの期待を高め、すでに半数を流通販路に乗せている。
書籍の流通には、出版社と書店の間を仲介する「取次」を介すのが一般的だ。だが大手の取次会社は保証金が必要で、加えて契約自体の可否などの問題もあるため、中小の取次会社を自ら開拓したという。また、約130店舗を有するアウトドア用品大手・モンベルへの配本も決まった。
店舗内では、関野氏が監督したドキュメンタリー映画「うんこと死体の復権」上映会とランチを組み合わせたイベントを企画・開催。顧客接点を多角化させている。
飲食・書籍販売・出版・雑貨・イベントという複数の収益源は「探検・冒険」という一つのテーマで束ねている。テーマに共鳴した客が書籍を買い、イベントに参加し、古書を探しに来る――共通のテーマが客を引き寄せ、書籍・飲食・古書・イベントへと購買が広がる構造だ。
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