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飲食店の倒産が相次ぐのになぜ強い? 吉祥寺の4.5坪店が「6つの収益源」で稼ぎ続けるワケ(1/3 ページ)

» 2026年08月28日 07時00分 公開

 2026年上半期、飲食店の倒産件数は473件に達し、4年連続で過去最多を更新した(帝国データバンク調べ)。食材・光熱費の高騰や人件費の上昇が中小・零細飲食店を直撃し、価格転嫁に踏み切れない事業者の淘汰が加速している。こうした飲食店の苦境が深まる中、東京・吉祥寺に、開業から黒字基調を続ける喫茶店がある。

 扉を開けると、未知の世界へと誘う「探検・冒険」の本棚が広がっていた。4.5坪という狭小空間でありながら書籍販売に加えて雑貨、スイーツ、ドリンク、ランチ、さらには自社出版や映画上映会まで展開する──。

 2025年12月にオープンした「喫茶ヒロミブックス」は、単一の商品に頼らない多層構造の収益ポートフォリオを組み上げ、開業してから黒字経営を維持し続けている。売り上げ構成はイベント25%、ランチ22%、書籍販売18%、ドリンク15%、雑貨11%、スイーツ9%だ。

東京・吉祥寺の「喫茶ヒロミブックス」の売り上げ構成はイベント25%、ランチ22%、書籍販売18%、ドリンク15%、雑貨11%、スイーツ9%と多層収益を強みとしている(以下、クレジットのない写真は撮影:佐藤匡倫)

 新規事業や店舗立ち上げでは「資金不足」「ノウハウ不足」「黒字化へのリスク管理」が壁となる。中小企業庁によれば「起業を阻害する要因として、創業希望者は資金不足、知識・ノウハウ不足などを課題に抱えている」(中小企業庁「創業支援施策について」より)という。

 同店を営む二荒美樹氏は、東京都と東京都中小企業振興公社が提供する創業支援施設「TOKYO創業ステーション」と、低コストで実店舗運営を検証できるチャレンジショップ「創の実」(以下、チャレンジショップ)を徹底的に活用することで、それらの壁を打ち破った。「探検・冒険をテーマにした書店」と「発酵食を取り入れたカフェ」を組み合わせた店舗の開業と並行して、自社出版まで実現している。

 伴走するコンサルタントからの「ポケットの中身を全て洗い出される」ような“熱血経営指導”を糧に、地に足を付けた事業計画を練り上げた。新規事業のPoC(概念実証)やリスク低減にも応用できる戦略的な制度活用と収益設計の手法に迫る。

二荒美樹(ふたら・みき)大学卒業後に広告会社に勤務。結婚・出産を機に転職そして退職し、10年間専業主婦に。復職後は飲食業界に進み、保育園の給食マネジャーや総菜カフェの立ち上げ、出張シェフなどを経験。その後、両親の介護が必要になったことから福祉の分野を知りたいと思い、社会福祉士の資格を取得して介護や障害福祉関連の仕事に就く。先の人生プランを模索しようと「TOKYO創業ステーション」に通うようになる中で、昔から好きだった探検・冒険に関する書店開くことを決意。2025年12月に「喫茶ヒロミブックス」をオープンした

「やりたいこと」を事業に落とし込む 構想を数字にするプロセス 

 構想を事業に変えるまでのプロセスには、押さえるべきポイントがある。二荒氏が開業前に何をしたかをたどると、新規事業の立ち上げにも通じる実践の手順が見えてくる。

 二荒氏はこれまで広告会社勤務を経て、保育園の給食マネジャーや総菜カフェの立ち上げ、出張シェフなど飲食分野でキャリアを積んできた。両親の介護をきっかけに社会福祉士の資格を取得。介護・障害福祉関連の仕事に就いた後、父をみとり、母が介護施設に入居したタイミングで「残りの人生、どんなふうに生きようか」と考えるようになったという。

 転機は、探検家・医師として50年以上活動を続け、フジテレビのドキュメンタリー番組「グレートジャーニー」でも知られる関野吉晴氏の講演会に通い始めたことだ。「目の前で挑戦し続ける探検家の姿を見て『できること』ではなく『本当にやりたいこと』を仕事にしようと心が固まりました」。関野氏の著作や関連作品に触れる中で、自身が魅了されてきた「探検・冒険」に特化した書店を事業化する構想が芽生えていった。

 同時期、息子の学校でお世話になった知人が「創の実」吉祥寺に出店していたことを知った。これがきっかけとなり、いずれは店名の由来にもなっている愛犬「ヒロミ」を連れてできるお店作りを理想として、出店を意識し始めたという。

 東京都には、起業家を目指すビジネスパーソンを支える2つの仕組みがある。起業に向けた相談や計画書作成、セミナーなどを無料で提供するTOKYO創業ステーションと、都内一等地の実店舗を低コストで借りながら経営指導まで提供するチャレンジショップだ。TOKYO創業ステーションはメンバー登録のみで利用でき、チャレンジショップは審査を経て採択された者が出店できる。

創業支援拠点・TOKYO創業ステーションTAMAのWebサイトより

 最初に相談先として選んだのが、東京都と東京都中小企業振興公社が連携して運営する創業支援拠点・TOKYO創業ステーションTAMA(東京都・立川市)だった。事業計画書の作成支援や専門家コンサルティング、各種セミナー、創業助成金の内容説明などを無料で提供しており、二荒氏は働きながら通い込んだ。

 並行して、東京都・大田区梅屋敷の独立系書店「葉々社」オーナー・小谷輝之氏が開催する「本屋と相談」に参加。「書籍販売だけで黒字化するには時間を要する」という現実とコスト構造を、数字で教わった。「書籍販売以外にも収益の柱を作る」方針を固め、カフェの併設を決めた。カフェのテーマは「発酵」とした。フードロスが少なく、寝かせるほど価値が増す発酵食品の特性が、仕入れとコスト管理にも合理的で、探検・冒険というテーマとも食文化という点でつながると判断したからだ。

 こうした準備を経て「喫茶ヒロミブックス」を開業した。開業前に知人からは「ニッチなお店では長く続かないよ」と言われた。だが開業から8カ月が経ち、出版などの先行投資を挟みながらも堅実な黒字基調を構築。「こういうお店を作ってもらえてよかった」と言われるほどのリピーター客を獲得している。

顧客の心をつかむメニュー構成。豊富な飲食キャリアが審査でも評価された

コンサルタントをフル活用 高精度な計画書づくりの裏側

 東京都のチャレンジショップへの出店は、書類審査と面接審査を通過しなければ始まらない。新規独自性や出店実現性、商店街活性化への寄与度、経営者の資質・能力といった項目によって評価される。

 チャレンジショップへの出店に向けた準備段階で、二荒氏が活用したのがTOKYO創業ステーションのプランコンサルティングだ。相談窓口には、創業を目指す経営者を伴走支援するプランコンサルタントがいる。それぞれ得意分野の異なる専門家が、コンサルタント間で連携を取りながら支援するという。

 「さまざまなコースがあって、ネットでも講義は視聴できます」と二荒氏が話すように、費用を気にせず何度でも相談できる仕組みだ。担任制を利用しつつ、専門領域の異なるコンサルタントにプランを持ち込み、それぞれの指摘をまとめて事業計画書に反映していった。一人では気付けない視点を、複数の専門家との対話で補ったという。

 二荒氏は、計画書を書く前に「現場で確かめる」姿勢を大事にしていたと話す。自ら参加したピアグループ(ミドルエージ向け)のワークショップでは、市場ニーズについてのアンケートを取った。「葉々社」以外にも、いくつかの独立系書店オーナーに会いに行き、事業の相談をした。机上の計画ではなく、現場で得た事実と数字が計画書の説得力を高める。この点は、新規事業の企画書や提案書を作成する際にも通じる視点だ。

 コストについても同様にさまざまな助言を求めたという。自社出版についても、梅屋敷の書店オーナーが「部数はあんまり出さなくていいかもしれないよ。印刷代はこのくらいだよ」と教えてくれたという。

 「実際の数字を見せてくれたので、経営するイメージがわきました。『これくらいのコストだったら、まずは自分でなんとかしよう』と判断できました」。自分の手で試算し、実現できると判断してから書いた計画書には、説得力が伴う。

「なぜここでなければならないのか」を一文で言える差別化の軸を持つことが大切だと語る二荒氏
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