CxO Insights

「サムスンが消えた」独IT見本市IFA 家電王国・日本の消滅と、中国“独り勝ち”の地殻変動(2/2 ページ)

» 2026年09月18日 07時00分 公開
[関口和一ITmedia]
前のページへ 1|2       

独→日韓→中国へ 欧州市場を襲う「20年の輪廻」とパナの苦渋

 「歴史は繰り返す」というが、欧州の家電ブランドといえば、昔はAEG(アー・エー・ゲー)やTELEFUNKEN(テレフンケン)、GRUNDIG(グルンディッヒ)、LOEWE(レーヴェ)といったドイツ企業が強かった。それを倒産に追い込んだのが日本や韓国のメーカーだった。

 グルンディッヒは、今回のIFAに大きなブースを構えていたが、実際に展示しているのはグルンディッヒのブランドを保有するトルコのOEMメーカーのArcelik(アルチェリク)だ。日本の家電ブランドなどの製造を手掛けるトルコのOEMメーカー、VESTEL(ベステル)も巨大なブースを構えていたが、中国メーカーの追い上げに遭い、今回は撤退を余儀なくされてしまった。

 では、日本の家電メーカーの出展はどうだったのか。かつての花形だったソニーはコロナ禍を機に展示ブースをやめ、現在は「クリエイター・ハブ」という主催団体の企画コーナーに取引関係者向けのクローズドなブースを構えているだけだ。

「クリエーター・ハブ」に設けた関係者のみが入れるソニーのコーナー

 パナソニックは日本勢ではこれまで唯一、展示ブースを最後まで構えていた。だが残念ながら、今回のIFAで展示を断念した。取引関係者だけが入れる白い壁で囲まれた商談ブースを設け「Panasonic」のロゴだけを大きく掲示していた。台湾の鴻海精密工業の傘下にあるシャープは展示ブースを継続しているものの、液晶テレビ以外は電動バイクなど「SHARP」ブランドを冠した生活家電用品に替わっていた。

一般来場者が立ち入れないパナソニックの商談ブース

配信とAIが日本の強み「精密技術」を無効化した

 取材を始めた時から、わずか20年でこれだけ出展企業が目まぐるしく変わった業界も珍しい。

 背景にはインターネットやクラウド、スマートフォンといった新しいデジタル技術が登場し、家電市場の構造が大きく変わってしまったことが見逃せない。音響機器はレコードからCD、DVDへと進化したが、ディスクを機械的に回す仕組みは同じだった。それがインターネットによるオンライン配信になり、メモリから視聴するようになった途端、日本メーカーが得意としていたモーターや組み立ての技術は不要となってしまったのである。

 さらに新しく登場したのが、生成AIだ。冷蔵庫や洗濯機などの白物家電もIFAの主要な展示分野だが、ハイアールやミデア、シャオミといった中国メーカーはそうした製品に最新のAI技術を搭載し、音声やスマートフォンなどでさまざまな操作をできるようにしている。単体の家電製品ではなく、家庭内の電気製品を統合的につなぐスマートホーム技術を世界でリードしているのは米Amazonや米Googleなどの米国企業と、ハイアールなどの中国企業となっている。

 日本では安全性やプライバシーなどの規制が厳しく、家電メーカーや住宅設備メーカーも縦割りのため、ブランドを超えて家電製品を相互につなぐのが難しい。一方、中国は個人情報よりも利便性を重視しており、消費者が自ら自由に家電製品を接続できる機器や環境が整っている。IFAでもスマートホーム向けの無線接続装置や監視カメラ、音声認識装置などの展示は、アンカーや深圳緑米創想(Aqara)、沃安科技(SwitchBot)、普聯技術(TP-Link)といった中国企業が群を抜いて多い。

アンカーの大きな展示ブース

新しい技術分野で「中国企業の先行」許した韓国メーカー

 実は日本メーカーが世界の家電市場を席巻したといわれた時代も、全ての分野で日本企業が世界シェアを握っていたわけではなかった。日本が強かったのはテレビやビデオカメラといった、いわゆる黒物家電で、静音設計やコンパクトさ、省エネなどが要求される白物家電は当時もガラパゴス状態にあった。

 一方、韓国メーカーは輸出向けの家電製品を国内でも販売することで、白物家電の世界シェアを取りに行った。サムスンの成功はそうしたグローバル戦略とスマートフォンなどの新しいデジタル技術をいち早く取り込んだところにあった。

 ところがEVやドローン、ヒューマノイドといった新しいデジタル技術が登場すると、韓国企業よりも中国企業の方が先に手を打ってしまった。かつての日本メーカーがそうだったように、サムスンも自らの技術力や優位性に慢心してしまったことが、今回の撤退につながったといえよう。

 ライバルのLG電子は今も大きなブースを構え、家事労働を肩代わりしてくれるロボット「CLOiD」(クロイド)を展示していたものの、発売には至っていない。一方、低価格ヒューマノイドで知られる宇樹科技(Unitree)や智元机器人(Agibot)はヒューマノイドをそれぞれ1万台以上出荷している。

来場者と記念撮影する中国エンジンAIのヒューマノイド

生成AIの登場でスマートグラスも大きな市場に 日本の「勝ち筋」は?

 生成AIとの連携で注目される新しい製品が、会話の翻訳や検索データなどをレンズに表示できるスマートグラスだ。日本にも「Rokid」(ロキッド)や「XREAL」(エックスリアル)といった中国ブランドが入ってきている。

TCLのスマートグラス「RayNeo」(レイネオ)を発表するCTOの孫力(ダニエル・スン)氏

 驚くことに中国では深圳を中心に、スマートグラス関連の製品や部品を手掛ける100社近いメーカーが集まり「WAEA」(World AI Eyewear Alliance=世界AI眼鏡同盟)なる標準化団体を結成し、IFAにもブースを設けていた。中核メンバーはRokidやINMO(インモ)、TCLのRayNeo(レイネオ)などの中国企業で、シリコンバレーやベルリンの企業も参加している。残念ながらリストに日本企業の名前はなく、蚊帳の外に置かれている。

 では、次の勝ち筋となる新しいデジタル技術とは何か。一つは紛れもなく「フィジカルAI」に違いない。放っておけば、また中国企業の独り勝ちになるのは目に見えている。そこに日本や韓国のメーカーはどんな手を打っていくのか。

 サムスンでさえも撤退を迫られた欧州の家電市場やデジタル市場に日本企業が立ち向かっていくには新たな発想と心構えが必要だ。「VHS対ベータ」や「液晶対プラズマ」といった技術規格競争が日本メーカーを中心に展開されていた時代は、もはや遠い過去の話だ。蚊帳の外に置かれた日本メーカーが世界で一矢報いるためには過去の栄光を忘れ、新たなデジタル技術の開発に真正面から取り組むしか手立てはない。

著者情報:関口和一(せきぐち・わいち)

(株)MM総研理事長、国際大学GLOCOM客員教授

1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。1988年フルブライト研究員としてハーバード大学留学。1989年英文日経キャップ。1990年ワシントン支局特派員。産業部電機担当キャップを経て、1996年より編集委員を24年間務めた。2000年から15年間、論説委員として情報通信分野などの社説を執筆。日経主催の「世界デジタルサミット」「世界経営者会議」のコーディネーターを25年近く務めた。2019年株式会社MM総研の代表取締役所長に就任。2026年3月よりMM総研理事長を務める。2008年より国際大学GLOCOMの客員教授。この間、法政大学ビジネススクールで15年、東京大学大学院で4年、客員教授を務めた。NHK国際放送のコメンテーターやBSテレビ東京の番組のメインキャスターも兼務した。現在は「CEATEC AWARD」の審査委員長や、「技術経営イノベーション大賞」「ジャパン・ツーリズム・アワード」の審査員などを務める。著書に『NTT 2030年世界戦略』『パソコン革命の旗手たち』『情報探索術』(以上日本経済新聞)、共著に『未来を創る情報通信政策』(NTT出版)、『日本の未来について話そう』(小学館)『新 入門・日本経済』(有斐閣)などがある。

視聴無料・LIVE配信:
「AI格差」を乗り越え自走する現場をつくる「変わる情シス 2026 夏」

photo

  • 開催日:9月14日(月)〜 9月18日(金)
  • 形式:オンラインセミナー
  • 参加費:無料

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR