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「サムスンが消えた」独IT見本市IFA 家電王国・日本の消滅と、中国“独り勝ち”の地殻変動(1/2 ページ)

» 2026年09月18日 07時00分 公開
[関口和一ITmedia]

「サムスンのブースがない」 取材歴20年の筆者が受けた衝撃

 「サムスンのブースがない」

 9月、ドイツ・ベルリンで開幕した欧州最大の家電見本市「IFA」。かつて「家電王国ニッポン」の旗印が躍り、近年はSamsung Electronics(韓国サムスン電子、以下サムスン)が巨大展示棟を占拠した会場から、それぞれが姿を消した。 

 IFAの取材歴20年を迎えた筆者が目撃したのは、日韓の巨頭が去った広大な空間を、Xiaomi(シャオミ)やHaier(ハイアール)、さらには最高時速150キロで飛ぶ有人ドローンを引っ提げた中国新興勢が埋め尽くす地殻変動だ。

 モーターや組み立ての精密さで勝った時代は終わり、生成AIやフィジカルAI、スマートグラス同盟を主導する中国勢が市場を席巻していく。蚊帳の外に置かれた日本メーカーに、再起の芽はあるのか。現地からレポートする。

多くの人でにぎわうメッセ・ベルリンの「IFA」の展示会場入口(以下、筆者撮影)

メイン会場から消えたサムスン 「王者撤退」の裏に潜む地殻変動

 IFAを初めて取材に訪れたのが2007年なので、今年でちょうど20年になる。

 当時のIFAといえば、ソニーやパナソニック、東芝、シャープ、パイオニアなど日本の大手家電メーカーがずらりと軒を並べ「家電王国ニッポン」を象徴する国際見本市だった。ところがコロナ禍を機に日本企業はIFAから撤退し、今回はもっと驚くことが起きていた。

 「あれ、サムスン電子のブースがない」

 IFAでは開幕2日前から、出展する各社の記者会見が開かれる。その合間を縫って出展作業が進む展示会場を歩いてみると、これまで新展示棟の「シティーキューブ」を一棟借りしていたサムスン電子の巨大なブースがなくなっていたのだ。

 会場は電動バイクやドローンなど次世代モビリティの展示に置き換わっていた。話を聞くと、サムスン電子は展示会場を市内に移し、IFAから撤退してしまったという。

 慌てて日本や韓国のサムスン関係者に問い合わせ、会場を探り当てて訪ねてみた。入場できるのは取引関係者のみということで、ジャーナリストはお誘いがあった記者に限られていたが、交渉の末、何とか潜り込むことができた。

 ただ展示会場はこれまでの2割程度のスペースしかなく、目新しい製品や技術は特に見当たらなかった。記者会見もわずか15分程度で、以前のような派手なパフォーマンスはなかった。

サムスン電子が招待者のみを集めたベルリン市内の展示会場

展示棟の幅44メートルの巨大広告も中国企業に

 実は兆しは、以前からあった。

 サムスンが一棟借りしていた展示棟の壁面には2024年まで同社が幅44メートルもの巨大な屋外広告を掲示していた。だが、2025年は中国家電メーカーの美的集団(ミデア)の広告に置き換わっていたからだ。

幅が約44メートルある美的集団(ミデア)の巨大広告

 2014年に新しい展示棟がオープンした際、IFAの当時の主催団体、Messe Berlin(メッセ・ベルリン)とサムスンとの間で交わされた長期出展契約が終了したためで、2025年はブースの展示は残っていたが、2026年はそれも会場から消えてしまった。

 米ラスベガスで開かれる世界最大のハイテク見本市「CES」でも、サムスンは2026年1月、出展場所をメインの展示会場から市内のホテルに移していた。ブランド力のある大手メーカーは、大勢の一般客が訪れる展示会場に出展して名前を売る必要がなく、商談ブースに取引関係者だけを招いた方が効率的だからだ。

 これはかつてソニーなどが取っていた手法でもある。しかしIFAやCESの見本市から日本メーカーが撤退した後、サムスンが一番の花形企業だっただけに、姿を消したのは意外だった。

中国のAnkerが手掛けるスマートホーム家電を、記者会見で紹介するジャッキー・ジアCMO(最高マーケティング責任者)

700万円の「空飛ぶ車」と進化する中国勢

 新しいスターは、言うまでもなく中国の大手家電メーカーである。

 これまでもIFAでは海信集団(ハイセンス)や海爾集団(ハイアール)、TCL科技集団、美的集団といった企業が大きなブースを構えていた。2026年は新たに小米集団(シャオミ)が巨大なブースを構え、電動スポーツカーやスマート家電などを展示していた。

 ロボット掃除機などを販売する新興家電メーカーの追覓科技(ドリーミー)も展示面積を2倍に拡大し、モバイルバッテリーなどを手掛けるAnker Innovations (アンカー)もブースを大幅に拡張するなど、中国メーカーの存在感が格段に増していた。

 新しい次世代モビリティのコーナーには、中国のEVメーカー、小鵬集団(シャオペン)が初めて出展し、人間が乗れる大型ドローン(eVTOL)やそれを運ぶための大型ミニバンEVの試作車を展示して話題を呼んでいた。

 大型ドローンは2人乗りで、最高時速150キロで飛び、航続時間は30分という。今回2回目の出展という南京航空航天大学発の航空ベンチャー、酷飛(クールフライ)は1人乗りの有人ドローンを展示していた。価格は30万人民元(約700万円)で「すでに100台販売した」と最高経営責任者(CEO)の李偉(リー・ウェイ)氏は言う。

2人乗り大型ドローン(右)とそれを運ぶシャオペンの大型ミニバンEV

出展面積4割を占拠 EV・電動バイクまで飲み込む「中国主導」のリアル

 電動バイクや電動スクーターも中国企業がリードしている。

 「Segway」(セグウェイ)を買収したNinebot(ナインボット)やYadea(ヤディア)、NIU(ニウ)、Aotos(アウトス)といったメーカーだ。Aotosは2025年のIFAでは人間が乗れる機内持ち込みサイズの電動キャリーバッグを展示して、来場者の話題を集めた。

 空港のコンコースなどを座って移動できるのが人気の理由だったが「バッテリー類の機内持ち込みが禁止されたことから、最近は電動バイクの方に力を入れている」とマネジャーのジアーチュン・リー氏は言う。

 2026年のIFAには、前年より約100社多い2000社以上が出展し、中国勢はその半分以上を占めていた。「グローバル・マーケット」と呼ばれる中小企業向けの展示コーナーへの出展が多いことが背景にある。一方で中国の大手メーカーが巨大ブースを設けていることから、展示面積も4割近くが中国系企業の出展となっている。

 台湾のPC大手、宏碁(エイサー)やディスプレイ大手の明基電通(BenQ)なども大規模なブースを構えていた。記者会見したエイサーの陳俊聖(ジェイソン・チェン)CEOは重さが799グラム、厚さが13ミリという超軽量PCを発表。中国本土の新興メーカーに対し、台湾の老舗メーカーの意地を見せていた。

重さ799グラムの超軽量PCを発表するエイサーのジェイソン・チェンCEO
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