新連載・宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:
乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。
バス、タクシー・自家用車……移動手段にはさまざまな選択肢がある中で、最近「ライドシェア」という言葉をよく聞くようになった。
タクシーとライドシェアで、ドアtoドア(家の玄関先から目的地まで)の役割は変わらない。しかし、営業運転を前提とした「普通2種免許」を持ったドライバーが専用の車両で輸送を行うタクシーに対して、ライドシェアは通常の免許(普通1種免許)でも就業でき、ドライバーの自家用車で営業を行う。
その多くがアプリで乗車場所・降車場所の指定や支払いまでを完結でき、おおむね安く利用できる。2012年にアメリカUber社が「UberX」サービスを開始してから、ライドシェアは急速に広まった。日本では、菅義偉元首相・岸田文雄首相などが導入に前向きな姿勢をとっているものの、タクシー業界などからの反発も依然として強く、本格的な導入の見通しは立っていない。
その中で、23年11月に、かねてよりライドシェア導入に積極的な河野太郎デジタル担当大臣が、兵庫県養父市を訪問。市内で営業しているライドシェア「やぶくる」に乗車し、市内の観光地を訪れた。ライドシェアについては「問題なかった。快適だった」とコメント。今後とも導入に向けてバックアップを行う意向を示している。
果たしてライドシェアは、養父市のような地方の交通を本当に救えるのだろうか……。まずは、養父市のやぶくるに乗車しつつ、導入に向けての今後の課題を探ってみよう。
ライドシェア「やぶくる」 タクシーとの違いは?
やぶくるの運行を担う「市民ドライバー」には6人が在籍、そのほとんどが普通1種免許の保持者だ。事前に「〇日の△時から対応可能」といったシフト希望を出して待機しており、連絡が入ると、遠隔操作でアルコール検知など呼気チェックを行ってから、乗客のもとに向かうという。
なお、2.4万人の人口を擁する養父市の中でも、やぶくるの対象エリアは「大屋地区」「関宮地区」(04年まではそれぞれ「養父郡大屋町・関宮町」)に限定されている。
やぶくるの場合は地元のタクシー会社(全但タクシー・あいあいタクシー)が受付窓口となっており、ここまでの流れはタクシーと同じだ。ただ、到着したクルマはもちろんドライバーが普段から乗っている自家用車。側面に「やぶくる」「神兵特第1号(陸運局の認可を示す)」と書かれたマグネットステッカーが貼られているものの、よく見ると工具や買い物袋などが積み込まれていて、ちょっとだけ生活感を感じるのが面白い。また運賃も、おおむねタクシーより安いのもありがたいところだ。
やぶくるを運営するNPO 法人養父市マイカー運送ネットワーク(兵庫県養父市)の小柴勝彦理事長によると、22年度はオーダー340件・431人の利用があり、ほとんどが地域内の診療所・スーパーなどへの利用だという。また、やぶくるは地域内のみ運行するため、バス停から離れた場所に住む人がエリア外の総合病院に向かう際に「最寄りバス停まで」利用するケースもあるそうだ。
やぶくる対象エリアの2地区は、大屋地区なら「明延鉱山跡」「天滝」、関宮地区なら「別宮の棚田・大ケヤキ」「ハチ高原」といった観光資源があるが、路線バスの本数はかなり限られている。クルマを使わずに訪れた観光客は「行きはバスで目的地に直通、そこからやぶくるで他の観光地へ」といったかたちで、効率よく2カ所以上のスポットを回るために使うケースもある、とのことだ。
国内でライドシェアの導入検討が始まった15年以降、さまざまな自治体で導入が検討されてきたものの、実際にサービスを開始できたのは、養父市を含めて数例のみだ。なぜ、養父市はライドシェアを必要とし、実際にサービス開始に漕ぎつけることができたのだろうか。
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