では早速撮影してみよう。OM-10は一眼レフとしてはかなりコンパクトであるため、鞄などにも入れやすい。また国産の丈夫さも兼ね備えており、常時持ち歩くカメラとして魅力的だ。
絞り優先でスナップ的に撮る分には良かったが、露出補正などを行なうのは面倒だ。シャッター半押しのAEロックなどもないし、例のシャッター幕全体を測光する方式なので、いわゆる全面測光なのである。したがって逆光時はうまく補正してやらないと、大抵露出アンダーになってしまう。
そこで、シャッタースピードを固定できる「マニュアルアダプタ」を買ってきた。1680円。よく一眼の露出計にあるように、マニュアルモードにすれば適正値と現在値の2つがLEDで表示されるのかと思ったら、AUTOモードと全く同じ表示のままであった。
シャッタースピードを設定できる「マニュアルアダプタ」も購入
つまりファインダ内で露出を見て、ある程度絞りとシャッタースピードのあたりを付けたのち、いったんファインダから目を離して、自分でシャッタースピードを設定して撮影するという段取りになる。こんな面倒な思いをするぐらいなら、別途露出計を持っていって計った方が、スムーズである。さらにファインダ内露出計があんまり当てにならないので、わざわざマニュアルで露出補正しても、それが結構ハズレだったりする。なるほど、あまり人気がないワケだ。
さらに困ったのが、自動電源OFF機能である。電源を入れると約90秒でスタンバイモードになるが、アングルや露出などを探っていると、案外90秒などはすぐである。じっくり構えて撮るカメラとしては、致命的だ。
また電源を入れ直しても、露出計が動かないことがある。シャッターボタンを押すことでスタンバイモードから復帰する機能もあるが、これが時々動かない。シャッターを押しながら電源を入れるという合わせ技でなんとかしのいでいるが、そのうち配線系をチェックしたほうが良さそうだ。
以前からOLYMPUSのハーフカメラやXAなどのコンパクト機は触ってきたが、OMレンズは初めてだ。撮影してみて感じるのは、非常にクールな味の描写であるということだ。ペンタックスのSuper-Takumarなどとは逆方向の個性である。
クールな描写だが、独特の柔らかさがある(左) ボケ味もナチュラルだ(右)
冬場の撮影にしてはクールすぎるかと思って、気休め程度にSKYLIGHTフィルタも使ってみたところ、適度に緩和されていい具合になった。個性のあるレンズは、工夫に応えてくれるから楽しい。
絞るとかなりのっぺりとした平坦な描写だが、開けたときのボケ味はナチュラルだ。このあたりもSuper-Takumarの個性的なボケ味とはまた違った感じである。
絞ると若干平坦な印象
開け気味だとなかなか雰囲気のある描写
描写はかっちりしていながらも、その中になんとなく独特の柔らかみがある、素直な絵作りだ。OMレンズの人気は、このあたりのストレートさに支えられているのかもしれない。
後日、やはり50mmだがF1.4のG.ZUIKOも手に入れた。最初のF.ZUIKOよりも古い標準レンズだが、絞りのハネが8枚もあり、丁寧な設計である。古いレンズにしては汚れもない綺麗なレンズだが、ただしバルサム切れであった。
バルサム切れとは、レンズを圧着している接着剤が剥がれてくる現象である。程度はいろいろあり、気泡が入っているレベルから、円周部全体に白いリング上の剥がれが目立つものまである。逆光では多少影響もあるだろうが、個人的には順光ではあまり問題ないと思っていて、程度の軽いものはよく買っている。
G.ZUIKOも描画の傾向は基本的に変わらないが、若干クールさが少ないように思う。解放値が明るいので、ファインダでフォーカスが見やすいのはありがたい。
若干暖かみのある描写のG.ZUIKO(左) この端正な描写がOMレンズの魅力(右)
OM-10は、マニュアルにこだわるのならば決して使いやすいカメラではないが、手軽にOMレンズの威力を楽しめるという点では、開発当時のコンセプトは間違っていなかったと言えるだろう。ただあまりにも合理化を進めたために、カメラ自体の個性が見えてこなくなってしまったのは、現代の工業製品の問題点をも先取りしていたということかもしれない。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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