カシオの正式な社名は「カシオ計算機株式会社」と言う。「計算機」というジャンル名を社名に残していることは、自らの活動範囲を狭くしているような印象を受ける。しかしデジカメの歴史を変えた「QV-10」(矢野渉の「クラシック・デジカメで遊ぶ」:10年先の写真を見据えて――カシオ「QV-10」)や時計の新ジャンルを作った「G-SHOCK」などのカシオのヒット商品よりも、もっとずっと前の時代を知っている世代にとっては、それは自然に受け入れることができることなのだ。
1972年に「カシオミニ」という電卓が発売された。オフィス用だった高価な電卓を1/3の値段にし、大きさも1/4にしたものだった。当然のように個人用途で空前の大ヒットとなった。ポケットに入る電卓など誰もが初めて目にするものだったからだ。
おそらくカシオ計算機株式会社は、この経験を心に留めるために「計算機」を外さないのだと思う。それまでになかったモノを開発すれば、それは必ず売れる、という技術系にとってはうれしい考え方だ。
2002年6月発売の“EXILIM”「EX-S1」は今も続く「EXILIM」シリーズの第一号機である。この頃、QV-10から始まったQVシリーズも他社との差をつけにくい状況になっていた。そこで新ブランドを立ち上げたのだが、これが「カシオミニ」の開発とよく似たやり方だったのだ。
小型化、軽量化、それも常識をくつがえすぐらいのレベルで。おそらく開発陣の脳裏には、電卓が最終的にクレジットカードサイズにまでなった事実があったに違いない。「カードサイズのデジカメ」。カシオらしい選択だった。本体前面には「ウェアラブル カードカメラ」の誇らしげな印字がある。
サイズ優先でデジカメを作れば、省かなくてはならないものがたくさん出てくる。ズームレンズなどとんでもない。オートフォーカスも無理だ。SDカードのカバーもいらない。これは古いカメラメーカーにはできない発想だろう。
しかしEX-S1はスペックだけで見ると有効124万画素CCD、レンズは35ミリ換算で37ミリの単焦点、絞りはF2.5固定、ピントは固定焦点で1メートルから無限、という下手をするとトイカメラの領域に入りそうなデジカメなのである。だから、そのかわりにEX-S1はボディのデザイン、質感と堅牢性にかなり気を使っている。
アルミのボディは触ると硬質な質感が指先に伝わる。ひどくぶつけない限り壊れないだろうという安心感がある。レンズ前の硬いガラス、背面の液晶も丈夫そうだ。そして撮影レンズ周りのデザイン。はめこまれたヘアライン加工の銀のリングがボディから首をもたげるように飛び出している。そしてその衛星の軌道のようにボディに刻まれた「えくぼ」。これらすべてがEX-S1を数ランク上の、エッジのきいたデジカメへと押し上げている。
これらの確信犯的な商品づくりがなければ、EX-S1はただのトイカメラだったかもしれないのだ。
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