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富士フイルムに見る、撮像素子開発の継承と蓄積(2/2 ページ)

» 2013年05月21日 11時26分 公開
[荻窪圭,ITmedia]
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――実際にX-Trans CMOS搭載のカメラで撮影した写真を等倍で見ると、ディテールまできちんと描写されているのが分かります。ああ、これがホンモノの1600万画素の実力なんだ、と。面白いことに、光学的な特性もすごく素直に出ますよね。絞りを開放から徐々に絞っていくとだんだん解像力が上がっていき、ある程度以上絞ると今度は回折効果の影響で少し甘くなる。これが面白い。

大石氏: そうですね。センサーの能力が上がった分だけ、レンズの特徴が出やすいとも言えます。レンズの良さを引き出せる余力を持ったセンサーを開発することができましたので、レンズ交換式のX-Pro1やX-E1では安心していいレンズを付けることができるようになりました。

photo X-Trasn CMOS搭載の「FUJIFILM X-E1」とレンズ「XF35mm F1.4」の組み合わせにて撮影  F2.8 1/500秒 ISO200

――X-Trans CMOSセンサーになって高感度も強くなった気がします。気のせいでしょうか? ノイズ低減処理の性能向上のせいでしょうか?

大石氏: X-Trans CMOSは解像度メインで開発しましたが、高感度にも強くなっています。X100Sの有効画素数はX100の1230万画素から1630万画素に増えてますが、センサーとしてのノイズも30%くらい軽減されています。

 従来型のセンサーですと、画素から画像を生成する際に各画素へ乗っているノイズの影響を受けるのですが、X-Trans CMOSはその画素配列の特徴から各画素を生成するときRGBすべてそろっているのと、従来のベイヤー配列よりG画素が多く配置されているため、うまく補完できるのです。G画素が多い分、RとBは少なめですが、そこは弊社の持つ補完するアルゴリズムでフォローできてます。

像面位相差AFはまだ進化する

――そして話は最新型のX100Sになります。X-Pro1でX-Trans CMOSを搭載したと思ったら、X100Sでは像面位相差AFの機能を追加した「X-Trasn CMOS II」と進化しました。

大石氏: 実はX100を開発発表したとき、すでに像面位相差AFの開発は行ってました。いち早く開発しようと考えていたわけではなく、我々のタイミングで開発してみたら、結果的に市場投入が早かった、という感じですね。

photo 像面位相差AF対応の「X-Trans CMOS II」センサー。CP+2013同社ブースでは1/2型、2/3型 APS-Cサイズが展示された

―― 実は像面位相差AFの導入も時代を先取りしてますよね。像面位相差センサー自体のアイデアはかなり古くからあったと聞きますが、確か最初に搭載したのが「FinePix F300EXR」(2010年7月発表)で、他社より早かったと記憶してます。特に望遠時のAFが超高速で驚きました。それが今回X100S、X20、FinePix F900EXRと一気に搭載されました。

大石氏: 像面位相差の考え自体は昔からあります。撮像素子の一部に位相差AFセンサーを搭載して撮像面で位相差AFを行う技術なのですが、重要なのは1つの素子へ、部分的に異なった素子を埋め込む技術です。実はそれに、かつて開発した「スーパーCCDハニカム SR」の技術が生きてるんです。

――ああ、SRですか。懐かしい。確か「FinePix F700」(2003年2月発表)ですよね。撮像素子上にサイズが違う2種類の画素を並べて、双方の画素を混合することでダイナミックレンジを4倍に広げるという、画像サイズは小さめだけど階調が豊かなカメラで個人的に好きでした。

大石氏: 像面位相差AFを実現するには通常の画素と、位相差センサーとなる画素の両方をひとつのイメージセンサーに置かなければなりません。そのときSRで開発した技術が生きているのです。

 像面位相差センサーとなる画素はそれぞれに対して半分だけ遮光するように作られていて、それによって「位相を含んだ信号」にしています。そしてその両者の信号を合わせると、位相差がわかりますからAFセンサーとして使えますし、ズレた量を計算すれば被写体までの距離に換算できるのであとはレンズを動かすだけです。実際には中央部に14万画素くらい用意してます。具体的に何が起きているかは、実はX100Sで見ることができるんですよ。

photo X-TrasnCMOS IIでは中央部に14万画素ほどの位相差センサーとなる画素を備えている

――というと?

大石氏: X100SをMFモードにすると、中央部が拡大されて表示されますが、それが位相差センサーのあるエリアなんです。MFモードでは表示がモノクロになって、スプリットイメージのように像がズレた状態で表示されます。それが位相差センサーからの信号そのものなんです。そのズレがなくなるようにフォーカスリングを回すとピントが合ったということなんです(「デジタルスプリットイメージ」機能)。

photo X100SをMFモードにすると中央部にグレーのエリアが現れる。ここが像面位相差センサーが配置されているエリアだ

photo フォーカスリングを回すとそこが拡大される。これは手前の顔にピントが合っている状態。少し距離がずれる帽子の後ろの縁や後ろにいる人形のところでは画像がボケている上に左右にずれている。このズレがポイント
photo 後ろにピントが合っている状態。手前の人形はピントが合わずに像もずれている
photo 前にピントが合っている状態。ズレの方向が違う。このズレの方向と距離で前後のどちらにどれだけピントがずれてるかを計算できる

――ほんとうだ。リアルに像面位相差を体感できるんですね。で、像面位相差AFは従来のコントラストAFより格段に高速ですが、位相差用の画素を用いることで画質が微妙に劣化するんじゃないかといういう人がいます。

大石氏: 補完アルゴリズムには自信があり、画質の劣化はありません。実は位相差用の信号も、ピントが合っている箇所については絵づくりに使ってます。心配ありません。

――もうひとつ、像面位相差AFは一眼レフの位相差AFに比べて暗所に弱いというイメージがあります。それは一眼レフが持つ位相差センサーに比べると、位相差検出に使う画素のサイズが小さいからと考えていいんでしょうか?

大石氏: そうです。位相差測定のセンサーが小さい分、一眼レフに比べると暗所には弱くなりますが、それでも3EVの明るさがあれば働きます。また、構造上、コントラストAFと併用できますから、像面位相差センサーが苦手なところではコントラストAFと併用できるので問題ありません。ただ像面位相差AFはようやく本格的に搭載できたという段階なので今後はもっと拡張していきたいと考えてます。かなりのキーデバイスになるのではないでしょうか・

――X100の登場から2年以上が経過し、市場にはAPS-Cサイズはもちろん、35ミリフルサイズセンサーを搭載したコンパクトデジカメ(レンズ一体型デジカメ)も登場していますが……。

大石氏: 技術的にはフルサイズにしてもX-Transの良さは発揮できますが、フルサイズの良さはどこにあるのかなと考えると、センサーが大きい分、解像力が上がるというだけではないと考えてます。味わいや空気感の描写といったところが大事になるのではないかと。

 弊社製品には色再現と階調を重視し、その上でさらに解像力や高感度性能を加えるという方針があります。そういう意味ではRAWよりJPEGがお勧めです。弊社の考える色再現や階調が現れます。多画素化の要望もありますが、感度とノイズとカメラの大きさのバランスを含めて考慮すると、現時点ではAPS-Cサイズの有効1630万画素がベストと考えました。


 というわけで、最新のローパスフィルターレス「X-Trans CMOS II」には、スーパーCCDハニカム(画素サイズを八角形にし、45度傾けて斜めに並べて独自配列のCCDセンサー)時代の技術が継承されているのであった。

スーパーCCDハニカムが製品として登場したのが2000年のこと。それをベースに進化し、2003年には大きさが異なる2種類の画素を搭載してダイナミックレンジを広げたFinePix F700が、2010年には像面位相差センサーを搭載したFinePix F200EXRが登場。

 その後CMOSセンサーへの移行があり、それが斜め配列によってローパスフィルターレスを実現したX-Transと像面位相差AFを継承したX-Trans CMOS IIとなって結実したのだ。継承・蓄積の上に新しいモノが作られていくのである。

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