山形豪・自然写真撮影紀
アフリカで子供の笑顔を撮る
夏休みも終わりが近いようだが、巷ではまだまだ子供の姿をよく見かける。そこで今回はアフリカでの子供の撮り方について書いてみようと思う。
普段はアフリカで野生動物や風景の撮影に主眼を置いて活動しているわけだが、縁や機会があれば人物も撮るようにしている。中でも幼い子供は、その無邪気さ故に撮っていてこちらも楽しくなる被写体だ。当然彼らの明るい表情を写真に収めたいと思ってカメラを向けるわけだが、そのためには注意せねばならない点がいくつかある。
第1の注意点はアプローチだ。これは撮影技術というよりも、むしろ自分の態度や心構えの問題だ。見ず知らずの人間がいきなりやってきたら誰だって最初は警戒する。従って、相手が自分の存在にある程度慣れるか、飽きて気にしなくなるまで一緒にいる必要があるのだが、このような場合、笑顔を絶やさずに接することが大切だ。笑顔は万国共通の「敵意はない」というサインだからだ。ただし、子供はとても敏感なので、こちらに少しでも自信のなさやためらいがあると、それを感じ取られてしまい、相手の表情が硬くなる。そのためごまかしは効かず、あくまで「本気」でなければならない。
さらに、写真を撮ろうという意識を強く持ちすぎると、それが殺気となって伝わってしまうので、これも気をつけたほうがよい。写真を撮る行為は狩りに類似している部分があって、「仕留めたい」という気持ちが表に出やすい。しかも黒くて大きなカメラを持ち、相手の領域にずかずかと踏み込んでゆくという極めて攻撃的な性質を持っている。子供の自然な表情や振る舞いを撮る上で、この攻撃性はマイナスにしか働かないので要注意だ。
相手の緊張をほぐし、良好な関係性を築く手段としては、一度撮ったあとで写真を画面に表示して見せてあげるのが非常に有効だ。特に発展途上国では自分の姿を写真で見た経験を持たない子が多いので、大喜びしてくれることもしばしばで、これにより一気に写真が撮りやすくなった経験が何度もある。
子供たちが遊びに熱中している時は絶好のチャンスだ。他のことがまったく気にならなくなるから、こちらが間合いをつめてもあまり警戒されなくなるのだ。その代わり、素早い動きについてゆき、正確にピントを合わせ、いい瞬間にシャッターを切るのは決して容易ではないし、なるべく邪魔にならないように配慮しつつ、それでもいいポジションにいなければならないので、フットワークの軽さを要求される。カメラを構えてからシャッターを切るまでの時間をできる限り短くする訓練も必要だ。いくら遊びに夢中でも、延々とレンズを向けられたのでは誰だって気付く。自分が注目の対象になっていることを察知されると、子供の行動にそれが表れてしまう。
撮影のアングルにも注意を払う必要がある。動物写真同様、なるべく相手と同じ目線で撮るようにしないと、なかなか臨場感が生まれないのだ。普通に立ったままでカメラを構えると、我々大人のほうが絶対に背が高いので、どうしても相手を見下ろしてしまう。個人的な好みの問題もあろうが、私はこの上から撮った写真に違和感を覚えることが多い。また、子供に威圧感を与えてしまいがちで、あまりいい結果を生み出さない。そこで、しゃがんだり膝をついたりして、極力自分の目線が相手と同じ位置にくるように気をつけている。
場所がアフリカであれ日本であれ子供は子供なので、基本的に撮り方は同じだ。しかし、撮影に至るまでのプロセスには日本とアフリカとでは勝手の違う部分もある。常識的に考えても、親や保護者などから撮影許可を得るといった配慮は必要だが、文化・風習・宗教の違う人々相手だと、事情がいささか複雑になったりするから厄介だ。例えばナミビアの遊牧民、ヒンバ族の場合、子供を撮らせてもらうには、親ではなく村の長老か酋長の許しが必要となる。英語を解さない人が大半なので、ガイド兼通訳に交渉してもらい、大抵はいくばくかの現金または食料を渡してからようやく撮影ができるようになる。宗教によっては戒律で写真に写ること自体を禁じている場合もある。
アフリカで子供を撮るのは、動物を撮る場合とはまた違ったハードルがあるが、コミュニケーションがとれる分だけ相手との距離が近く、撮影時の自由度も高くて面白い。もちろん、相手の警戒心がとけなかったりして、上手くいかないこともしばしばだが、それだけに子供のいい笑顔が撮れたときの気分は最高だ。
著者プロフィール
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
【お知らせ】山形氏の著作として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが好評発売中です。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)
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