1つのサイベースが新たな船出――早川新社長に聞く

サイベースは、同社の関連企業であるアイエニウェア・ソリューションズの社長を務めている早川典之氏が、前社長の澤辺正紀氏に代わり新たに社長に就任したことを明らかにした

» 2005年02月05日 14時17分 公開
[聞き手:怒賀新也,ITmedia]

 サイベースは1月20日に、同社の関連企業であるアイエニウェア・ソリューションズの社長を務めている早川典之氏が、前社長の澤辺正紀氏に代わり新たに社長に就任したことを明らかにした。早川氏は両社の社長を兼任することになる。サイベースは、Unwired Enterpriseを掲げ、リレーショナルデータベース(RDB)やデータ分析エンジンを提供する一方で、もともとサイベースの事業部門の1つであったアイエニウェアは、2年前に独立し、モバイルデータベースの提供で順調にビジネスを展開していた。

 だが、実際には、両社がクロスする形で同じ製品を販売することも多かったという。新社長の早川氏に話を聞いた。

早川典之氏。松下電器産業から1998年にサイベースに入社。2003年2月に、アイエニウェアの社長に就任。慶應義塾大学理工学部出身で、2月2日で43歳になった。

ITmedia 今回の人事の経緯について教えてください。

早川 Sybaseのワールドワイドにおける第4四半期の業績は、ライセンス売り上げが前年比7%増、トータルでも4%増となり、いい年になりました。しかし、日本市場はそれほど伸びませんでした。アイエニウェアは過去5年の間順調にビジネスを展開し、2003年の日本法人設立からも成長を維持していたため、米本社は、サイベースとアイエニウェアという2つの法人が、異なるマネジメントで同じ商品を販売している現状が非効率的であると判断しました。その結果、マネジメントを一元化する方針が打ち出され、今回の人事にいたりました。

ITmedia 展開する製品などに変化はありますか?

早川 今後もUnwired Enterpriseというコンセプトは変わりません。Unwired Enterpriseを支える「Liquidity」(情報の流動性)と「Mobility」という2つの事業キーワードについても継続します。

 ただし、これまでは、(異種混合のシステム間でデータを連携させる)Liquidityはサイベースが、(モバイルデータベースを中心とするインフラを提供する)Mobilityはアイエニウェアが行うというイメージを市場に与えてしまっていました。サイベースとしては、Unwired Enterpriseというインフラ全体として、(RDB、データ分析エンジン、ポータル、ミドルウェア、EAIなどの製品を)企業に導入してもらうことが本来の目的です。

 また、現在米国では、データをできる限り(営業などビジネスに直接関係のある)フロントに出していくことに注目が集まっており、そこでは、LiquidityとMobilityは切り離すことはできません。今後は、LiquidityとMobilityを一本化した組織で販売していきます。

ITmedia モバイルビジネスについて、コンシューマ市場は立ち上がりましたが、企業向け市場はまだ立ち遅れている印象があります。

早川 サイベースは、テレコムなどに有望な顧客を持っており、RDBやレプリケーションサーバなどが導入されています。こうした顧客の多くは、企業向けのソリューション展開を視野に入れており、特にMobilityについては興味を持っています。

 たとえば、ウィルコム(旧DDIポケット)は、スモールセル(関連用語)などのPHSの技術的な特徴を生かして、エンタープライズ分野にもっと打って出たいと考えています。また、サイベースの顧客であるVodafoneも法人向けビジネスを強化しようとしています。

 また、多くの企業が社内で情報共有システムを運用しています。その情報に社員が携帯端末を使って外からアクセスするというニーズは、今後ますます増えていくと予想されます。サイベースはこれまで、バックエンドの仕組みを担当していましたが、今度はフロントの情報提供の役割を担えると考えています。現状では、あまり競合が少ない領域でもあります。

ITmedia 日本ではPDAが普及しない雰囲気もあります。

早川 コンシューマモデルについては、多くのメーカーが撤退する流れになりつつあります。価格下落が激しくてビジネスにならないという判断と、やはり、ノートPCで用が足りるという結論が出ようとしています。

 一方では、業種モデルという方向ではPDAにニーズがあります。バーコードリーダーがついていたり、Bluetooth対応など、特定の機能を持つ製品は売れています。そのため、物流や小売という分野では、まだまだ需要があるとメーカーは判断しています。

 そして、PDAなどが取得したデータを蓄積すると、次に、それを分析するという需要が生まれます。そこで、データ分析エンジンであるIQを導入してもらえる可能性が出てくるのです。

 さらに、IQに関して、業種などに分けたパッケージソリューションとして提供することも視野に入れています。IQを単体で販売して、“どうぞ分析してください”と言っても、ユーザー企業はデータウェアハウスなどを1から構築しなくてはならず、困ってしまうことが多いからです。IQと、ビジネスインテリジェンス、あるいはアプリケーションを組み合わせて、ユーザー企業が、自社で開発をしなくて済むようにしていきたい。

ITmedia 新社長となった抱負を聞かせてください。

早川 サイベース全体の日本での売り上げを増やしたい。外資系ベンダーの最大の弱みは、日本法人の社員の絶対数が少ないことなどにより、サポート体制が手薄なものになりがちなことにあります。今後は、サイベースとアイエニウェアの両社の組織のリソースをうまく活用して、充実させていく考えです。

 また、アイエニウェアはモバイルデータベースを提供する点で比較的イメージが固まっていますが、サイベースはさまざまな製品を提供しているために、人によって持つイメージが違います。Unwired Enterpriseというフレーズがいいか悪いかは別として、サイベースのイメージの統一も図りたい。

ITmedia 「Unwired」「Liquidity」という言葉は、日本人には分かりづらい印象もあります。

早川 言い方を分かりやすく変えないといけないかもしれませんね(笑)。ほかにも、「モバイル」というと、日本では携帯電話がすぐに思い浮かぶという現状もあります。たしかに、シンビアンOSが搭載された携帯電話も出てきつつあり、そこではサイベースにもチャンスがあるわけですが、現状では、サイベースとして展開する「モバイルデータベース」と携帯電話の関連は深くはありません。

 Unwired Enterpriseはワールドワイドで展開しているものですが、その下のレイヤーでは、もう少し顧客企業が理解しやすい言葉にメッセージを変える必要もあるかもしれません。

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