Keynote:「抽象化こそがソフトウェア開発の課題」とIBMのブーチ氏Rational Software Development Conference 2005

IBMのフェロー、ブーチ氏が開催2日目Rational Software Development Conference 2005の基調講演で語ったポイントは、ソフトウェア開発の課題、そしてビジネスとITのギャップを埋めるためのSOAを、目に見える形で具現化することだった。

» 2005年05月25日 20時25分 公開
[木田佳克,ITmedia]

 ネバダ州ラスベガスで26日(米国時間)まで開催の「Rational Software Development Conference 2005」。開催2日目(24日)の基調講演には、IBMフェローのグラディー・ブーチ氏が登壇した。23日の講演と共にブーチ氏の講演でIBMがメッセージとしたことは、SOAを現実的なものとして提供可能と知らしめることだ。

Blue Geneプロセッサを手にして「Deep Thnder」と名付けられた気象予報研究についてを語るブーチ氏

 UMLはもちろんオブジェクト指向開発方法論であるRUP(Rational Unified Process)に関わっているブーチ氏は、24日の基調講演で「Advancing Software Engineering」と題したソフトウェア開発についてを語り、抽象度を高めることで複雑さを見えなくすることが大きな課題であると言及した。

 講演中盤にはSOAを作り上げていくToolkitを用いたデモを見せ、どのような手順で具現化可能かを強調した。また講演最後には、IBMがこれまで作り上げたものや、研究過程であるものの今後実現されていくであろうイノベーションの幾つかを披露した。

ソフトウェア開発の課題とIBMが具体化する抽象化の形

 ブーチ氏は冒頭で「Hacking Slot Machines FOR DUMMIES」と書かれた本の表紙を見せ、ラスベガスならではのジョークで会場を湧かせた。さらに映画公開当時、エンターテインメント界でイノベーションと言えた「2001年宇宙の旅」の中でIBMが使われていたことを強調した。

 そしてソフトウェア開発の核心についてを語り出す。

 現在でも、抽象化レベルはオープンスタンダードを基に高まりつつある。しかし、IT化を進める上でより高度に解決していかなければ、ソースコードステップ数が増加の一途であり、いっそうの複雑さが待ちかまえているという。米国では現在、ネットワークトラフィックが1秒あたり1Tバイトにまで達しており、さまざまなものがIT化されネットワークを飛び交っていることを強調した。

 開発言語についても触れ、低級言語は今後利用率が下がり、Java言語を始めとする高級言語の利用率はますます高まるであろうことを述べた。そしてLinuxは、特定分野の利用ではなく、コモディティ化が進んでいるとも言及した。

開発、運用のベストプラクティス

 IBMが実際に取り組む抽象化として挙げられたのが、Rationalの「RUP」やTivoliの「ITUP」についてだ。それぞれは、オープンスタンダードを基にBDD(Business-Driven Development:ビジネス駆動型開発)に則したベストプラクティスと位置づけられ、RUPの開発面と、ITUPの運用面それぞれをカバーする。また、現在はRUPの利用形態がブラウザ表示の状態だが、より開発段階で扱いやすいようEclipseプラグインとして提供予定であることにも触れた。

 RUPは、IBM社内でもベストプラクティスとして開発者間で使われているという。ITUP(IBM Tivoli Unified Process)は、RUPと同じ側面を持つ運用のベストプラクティスとして位置づけられるものだ。

デモで示されたBDD側面からのSOA実現

 講演中盤からのデモは、ビジネスに関わる上流課程から入り、モデリング手法であるCBM(Component Business Modeling)をRational Software Architect(RSA)の中に取り込んでいる例を見せた。

 デモの流れは、CBM定義となるビジネスモデル設計から始まり、Architectの役割としてRSAを用い、そしてサービス検索をしてインポートするというもの。さらに、堅牢性やパフォーマンス要求などの非機能要件が必要となるが、RSAではこれを実現するための機能が統合されている。どのような形態で実装するかは下写真に示した画面にあり、Architectがデプロイする際、効率的であるかがデモの終盤目的となっていた。

 なお、デモで披露されたものは日本語環境では検証されていない米国IBM内で用いられているものだという。RUP Plug-In for SOA などは既に公開されているものの、IBMはこの基調講演で、アセットベースの開発手法をビジョンとして明らかとさせたことが大きなポイントだ。

RUPの特色の1つは、ハードウェア構成などもモデリング要素に加えるのが可能なこと。デモでは、MQやWebSphereなどがどのサーバ上で稼働するかというモデリング定義の例を示した

 講演終盤でブーチ氏は、世界中に東京を含めて8つの拠点があるリサーチ研究所についてに触れ、Rationalとのジョイントプロジェクトが始まっていることを語った。また、研究段階ではあるもののActivity Spacesと呼ばれる遠隔地のメンバーと開発協業の在り方を示すコラボレーションモデルを見せた。

研究段階である開発者間のコラボレーションを実現するActivity Spaces
ビジュアリゼーション研究の一端として示された、開発の変化を起こすパターンを可視化したもの

 なお、これらの研究の成果はalphaWorksで公開されており、参照することができるという。

研究開発の1つとして紹介されたモバイル向けのキーボードデバイス「SHARK」

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