世界との差が照らし出す勝利への布石Imagine Cup 2009 Report(2/2 ページ)

» 2009年07月13日 19時42分 公開
[藤村能光,ITmedia]
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発表内容をきちんと伝える力

 「穴を作っておいて、質疑を受け、用意していた答えで審査員を引きつける」といったプレゼンテーションのスキルも必要だ。決勝に進出したチームは、このような高度なスキルを発表内で随所に見せていた。「子どものころからディベート(議論)の場数を踏む機会を得ている」(渡辺氏)など、文化的な背景も無視できないが、単に英語に長けているという点だけでは、世界と互角に渡り合うことは難しくなっている。

 世界代表には、健康や環境、教育関連のスペシャリストをメンバーに引き入れているチームも目立ったと下大園氏は言う。Imagine Cupで与えられたテーマを現実解としてかみ砕き、伝え、そして質疑応答にも難なく答えを返せるようなメンバーを加えることも、世界で勝ち抜くには不可欠な要素になるといえそうだ。

自分の殻を打ち破る瞬間と対峙

 日本がImagine Cupで世界の強国と戦うために克服すべき課題は多い。だが、大会に出場することで、勝ち負け以外の経験が積めるのも大きい。NISLab++の面々は、Imagine Cupの出場に当たり、自分の成長を感じる日々だった。

image Imagine Cupへの出場で失ったものを聞くと「ノーコメント」と苦笑するNISLab+。時間的な拘束や学問への支障などが考えられるが、それ以上に余りある経験を積んだことは間違いない

 今回が初のImagine Cup参加となる門脇恒平さんは、チームのまとめ役を買って出た。これまでもIT関連のコンペに数多く参加し、「仕事や役割をすべて洗い出して、メンバーを引っ張っていく役割」(門脇さん)を担っていた。だが、今回の大会に臨むに当たり、チームを先導する手法を変えた。

 彼は「できるだけ何も言わないまとめ役」(門脇さん)に徹した。ほかのメンバーは2008年にImagine Cupに出場するなど経験を重ねており、アイデアや行動が各自から出てきた。「一つ上(の位置)から見て、チームの方向を修正するようにしていた」と門脇さん。自主性溢れるNISLab++のメンバーを見て、あらゆる仕事を担当するだけがリーダーじゃないことを理解し、これまでの成功体験から抜け出すことを選んだ。

 チームで仕事をすることの意味を肌身で感じたのは中島申詞さんだ。もともと一人で開発をすることを好んでいたが、チームで開発をするに当たり、周りの仕事の進ちょくやスケジュールを管理しないと、開発が立ちゆかなくなることを実感した。「リーダーとして小さなタスクなどを率先してこなした」(中島さん)彼は、NISLab++を日本代表に押し上げた陰の立役者だった。

 昨年に続き、多くの時間をImagine Cupに費やした加藤宏樹さんは、「この大会で大きく成長した。この体験を後輩にも伝えたい」と話している。彼らが乗り越えていった本戦出場までの過程、そして現地で得た経験が、次の日本代表をより上のレベルに引き上げることは間違いない。

 「1年を通じて弱音をまったく吐かなかった。(何日も寝てないにもかかわらず)眠たいとも言わなかった」。メンターを務めた同志社大学 理工学部情報システムデザイン学科 専任講師の小板隆浩氏は、NISLab++の強さをこう説明する。昨年の敗退をきっかけに優勝という目標が手の届くところに降りてきた。それをつかみ取ろうとしたNISLab++の面々は、濃密な時間の中で自らの殻を破り続けた。


 Imagine Cupの閉会式において、来年度の大会「Imagine Cup 2010」の詳細が発表された。次の開催地はポーランド。9つあった各部門は3つに統合される。特に参加人数の多いソフトウェアデザイン部門と組み込み開発部門が1つになることで、学生達は一層厳しい戦いを強いられる。だが、NISLab++をはじめ日本代表が歩んできた世界大会までの道のりが色あせることはない。見えてきた課題を1つずつ克服していけば、未来の日本代表が世界で勝つ日が必ず来るだろう。

各部門のトップチーム ステージには決勝戦で戦いを繰り広げた各部門のトップチームが集った

世界中の学生がテクノロジーを駆使して社会問題に立ち向かう「Imagine Cup」。バックナンバーはこちらをクリック


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