ネットスイートと富士通は業務提携し、SaaS型の業務アプリケーションスイートの拡販に乗り出す。国内市場の開拓とSaaS事業の強化という2社の思惑が一致し、協業関係をもたらした。
米NetSuiteのザック・ネルソンCEO(最高経営責任者)は、8月5日に開催された記者説明会で、富士通グループと業務提携を結んだと発表した。ERPやCRMなどの機能をSaaS(サービスとしてのソフトウェア)として提供する業務アプリケーションスイート「NetSuite」および「NetSuite CRM+」を、富士通と富士通ビジネスシステム(FJB)が販売する。国内でのサービスの拡販を強化したい日本法人のネットスイートと、SaaS事業に注力する富士通が手を取り合った。
SaaS専業ベンダーとして3期連続で黒字を確保した米NetSuiteだが、ネルソンCEOは「一夜の成功ではなく10年の努力の結果だ」と同社の成長について話す。クラウドコンピューティングの普及に伴い、システムの運用は自社保有(オンプレミス)に加えて、ネットワーク経由で各システムの機能を活用するという形態が出てきたことが、NetSuiteの利益拡大を後押ししている。
それに伴い、「先行投資」(ネルソンCEO)と位置付けてきた日本市場の利益化にもつなげる。ネットスイートは8月4日にSAPジャパンでバイスプレジデントを務めてきた田村元氏を社長に招いた。国内でのSaaSの拡販に対し、「ERPビジネスで20年近く実績がある」(ネットスイート)田村氏に白羽の矢が立った。
田村新社長はNetSuiteについて「ERP、CRMを含むあらゆるSaaSアプリケーションのデータが裏側のシステムですべてつながっていることが強み」と話し、既に自社運用型のERPを導入している大規模企業や既存のシステムを拡張したい中堅・中小企業などを対象に、サービスを浸透させる考えを明らかにした。特に、国内企業向けに会計基準などの機能を改良し、日本の商慣習に合わせた機能を追加した「NetSuite-Release J」(2008年12月に発売)の拡販につなげるとしている。
富士通にとって、ネットスイートとの業務提携の狙いはSaaS事業の強化にある。同社が8月1日に完全子会社化したFJBは、2007年からNetSuiteを販売している実績がある。それに加え、富士通からもNetSuiteを提供することで、顧客企業に対してSaaS型のERPを提案できるようになる。同社はSaaS事業において4年間で3000億円の売り上げを目指すとしており、NetSuiteの拡充はSaaS型ERPサービスという同社がこれまでに持っていなかったラインアップの強化につながる。中堅企業向けに提供しているERPのパッケージソフト「GLOVIA smart」も併せて顧客に提案することで、幅広く案件を獲得する体制を整える。
提携に伴い、富士通とFJBはNetSuiteの導入における顧客の開拓、システム構築、サポートサービスなどを担当する。「ガイドやヘルプの設定、項目の追加」(ネットスイート田村社長)なども手掛ける。
ネルソンCEOは「この10年で市場が変化し、クラウドの将来に対する可能性が広がっている。富士通との提携はNetSuiteだけでなく、業界全体で重要な位置付けだ」と話していた。
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