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» 2009年09月29日 08時00分 公開

GoogleやIBMの未来を方向付けた「顧客視点の事業定義」朝のカフェで鍛える 実戦的マーケティング力(1)(3/3 ページ)

[永井孝尚,ITmedia]
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与田誠の解説: 事業の定義

 「鉄道会社の事業は鉄道事業」と考えると何が起こるか?

 歴史上、輸送手段はさまざまな方法が生み出されてきた。昔は徒歩、人力車、船、鉄道、自動車、航空機……。時代が移るとともに、輸送手段は変わってきている。つまり、「鉄道会社の事業は鉄道事業」と考えた場合、鉄道という輸送手段が衰退すると、鉄道会社も衰退するということだ。

 このことは、50年前の1960年に、ハーバードビジネス教授であり、ハーバードビジネスレビューの編集長でもあったセオドア・レビット氏が『マーケティング近視眼』という論文で指摘していたことだ。

 「変化が激しいマーケティングの世界で、五十年前の論文なんて」、と思うかもしれない。しかし、この記念碑的な論文で述べられていることの重要性は、今でもまったく変わらない。次の文章は論文からの引用だ。

(米国で)鉄道が衰退したのは、旅客や貨物輸送の需要が減ったためではない。それらの需要は依然として増え続けている。鉄道が危機に見舞われているのは、鉄道以外の手段(自動車、トラック、航空機、さらには電話)に顧客を奪われたからでもない。鉄道会社自体が、そうした需要を満たすことを放棄したからなのだ。鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客を他社へ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は、輸送を目的と考えず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。(セオドア・レビット著『マーケティング論』ダイヤモンド社、4ページより引用)

 例えばインターネット検索で大きなシェアを握っているGoogle。事業を「インターネット検索事業」と定義せず、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」と定義したことで、検索にとどまらず、さまざまなサービスを提供してきた。

 IBMは、自社を「コンピュータ事業」とは定義せず、「顧客の経営変革を支援する事業」と定義した。この結果、20年前のIBMは売上の大半が大型コンピュータであったが、現在のIBMの売上はサービスやコンサルテーション、ソフトウェアが主力になっている。

 事業を顧客の視点でどのように定義するかで、企業の将来は決まる。

 ノースウェスタン大学ケロッグ・スクールのフィリップ・コトラー教授は、現代マーケティングの第一人者としても知られる。コトラー教授は、幾つかの企業について、事業ドメインの定義例として、製品志向の定義と市場志向の定義を比較している。コトラー教授の著書『コトラーのマーケティング入門』(フィリップ・コトラー/ゲイリー・アームストロング著)に掲載されているので、参考にしていただきたい。

(編集部注:「朝のカフェで鍛える 実戦的マーケティング力」では、事業ドメインの定義例の図が掲載されています)

宮前久美のまとめノート

  • 顧客視点で事業を考えよう
  • 米国鉄道会社:「輸送事業」(顧客視点)でなく「鉄道事業」(製品視点)で考えて衰退(怖い!!)
  • IBM:「コンピュータ事業」(製品視点)でなく「顧客の経営変革を支援する事業」(顧客視点)と考えて事業変革を実現
  • 顧客の視点を持てば、市場環境が変わっても変革を続けられる
  • ウチの会社の事業って、なんだろう? (「会計ソフト」は製品中心。30点……)


(注)本書に掲載された内容は永井孝尚個人の見解であり、必ずしも勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。

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著者プロフィール:永井孝尚(ながいたかひさ)

永井孝尚

日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネジャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。9月29日に新著「朝のカフェで鍛える 実戦的マーケティング力」を出版。過去の著書に「戦略プロフェッショナルの心得」がある。


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