顧客第一主義の自社が価格の高いライバルに負ける理由朝のカフェで鍛える 実践的マーケティング力(2)(3/3 ページ)

» 2009年10月03日 00時00分 公開
[永井孝尚,ITmedia]
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与田誠の解説:顧客満足を構造的に考える

 世の中では、「顧客満足は、企業にとって極めて大切」「顧客満足度を高めれば、売り上げも必ず上がる」「これは、疑いようもない真実である」という主張をよく見かける。

 確かに顧客満足は極めて大切だ。

 しかし顧客満足は、精神論ではなく、構造的に考える必要がある。

 「顧客満足を徹底的に高めればビジネスはまったく心配ないのだ」と単純化してとらえて、「だから、顧客の言うことにはすべて対応すればよいのだ。なぜならそれが高い顧客満足をもたらすからだ」と短絡化して考え、A社がスズキ建設で陥ったような事態を招くこともある。

 顧客満足は、顧客が感じた価値が顧客の期待値を上回った場合に生まれる。さらに、顧客が感じた価値と顧客の期待値の差が大きいほど、顧客満足は大きくなる。

image 構造的に考えて顧客満足を高める(出典:『朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力』)

 このように考えると、顧客満足を高めるためには、考慮すべきことは次の通りだ。

  •  顧客の期待値を把握する
  •  その期待値に対して働き掛ける
  •  そして、常にその期待値をできる限り上回る価値を提供する

 しかし往々にして次のようになりがちだ。

  •  顧客の真の期待値(言い換えれば真の課題)を事前に把握できない
  •  真の期待値が分からないので、真の期待値に対して働きかけられない
  •  顧客から断片的に伝えられる要望を顧客の期待値・課題と考えて、すべてに対応しよう

とする。

  •  この結果、提供する価値が顧客の真の期待値を満足させられず、顧客の満足を得られない
  •  満足を得られないので、価格で勝負せざるを得なくなり、値引き勝負になる。そして収益が落ちる

 X社の場合は、会計担当者への聞き取り調査を徹底し、その調査結果の意味を徹底的に考え抜くことによって、ユーザー目線で顧客の真の課題を把握した。これにより個別要望の対応や値引き対応を行うことなく、顧客の期待値を圧倒的に上回る提案を行い、スズキ建設から高い顧客満足を獲得した。

 一方のA社の場合は、顧客の真の課題を把握できていなかった。そのため、個別の製品機能改善要望への対応と値引き対応に終始していた。そして、この方法で顧客満足度が高くなるはずと考えていた。しかしX社と比べて顧客満足が低かった。この結果、X社よりも低価格であったにもかかわらず、負けたのだ。

 単に顧客の言いなりになるのではなく、顧客が気づかない真の価値を創造し、提供することこそ、顧客満足につながるのだ。

宮前久美のまとめノート

  • 顧客満足は極めて大切
  • 顧客の個別要望だけ考えても、真の顧客の課題は見えない→顧客満足は得られない
  • 顧客の要望へのリアクティブな対応だけではダメ。ポジティブな提案が必要。
  • 顧客の真の課題を徹底的に考え抜くこと。(実は顧客も真の課題を知らないことが多い←意外!!)
  • どのように真の顧客の課題を把握し、顧客の真の価値を創造すればいいんだろう?

(注)本書に掲載された内容は永井孝尚個人の見解であり、必ずしも勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。

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著者プロフィール:永井孝尚(ながいたかひさ)

永井孝尚

日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネジャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。9月29日に新著「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」を出版。過去の著書に「戦略プロフェッショナルの心得」がある。


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