世の中では、「顧客満足は、企業にとって極めて大切」「顧客満足度を高めれば、売り上げも必ず上がる」「これは、疑いようもない真実である」という主張をよく見かける。
確かに顧客満足は極めて大切だ。
しかし顧客満足は、精神論ではなく、構造的に考える必要がある。
「顧客満足を徹底的に高めればビジネスはまったく心配ないのだ」と単純化してとらえて、「だから、顧客の言うことにはすべて対応すればよいのだ。なぜならそれが高い顧客満足をもたらすからだ」と短絡化して考え、A社がスズキ建設で陥ったような事態を招くこともある。
顧客満足は、顧客が感じた価値が顧客の期待値を上回った場合に生まれる。さらに、顧客が感じた価値と顧客の期待値の差が大きいほど、顧客満足は大きくなる。
このように考えると、顧客満足を高めるためには、考慮すべきことは次の通りだ。
しかし往々にして次のようになりがちだ。
とする。
X社の場合は、会計担当者への聞き取り調査を徹底し、その調査結果の意味を徹底的に考え抜くことによって、ユーザー目線で顧客の真の課題を把握した。これにより個別要望の対応や値引き対応を行うことなく、顧客の期待値を圧倒的に上回る提案を行い、スズキ建設から高い顧客満足を獲得した。
一方のA社の場合は、顧客の真の課題を把握できていなかった。そのため、個別の製品機能改善要望への対応と値引き対応に終始していた。そして、この方法で顧客満足度が高くなるはずと考えていた。しかしX社と比べて顧客満足が低かった。この結果、X社よりも低価格であったにもかかわらず、負けたのだ。
単に顧客の言いなりになるのではなく、顧客が気づかない真の価値を創造し、提供することこそ、顧客満足につながるのだ。
(注)本書に掲載された内容は永井孝尚個人の見解であり、必ずしも勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。
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日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネジャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。9月29日に新著「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」を出版。過去の著書に「戦略プロフェッショナルの心得」がある。
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