クレメンティ氏はもう1つの例を挙げた。
「インターネットが普及した1990年代を考えてみよう。インターネットはそれ以前から存在したが、本格的な普及には至っていなかった。ファイル転送にFTPを使ったり、pingなどのIPコマンドを使ったりするのが人々に受け入れられなかったからだ。Mosaicというブラウザの登場がインターネットの普及を促したのだ。ブラウザが果たした役割はただ1つ、インターネットを簡単に利用できるようにしたことだ」とクレメンティ氏は話す。
「人々は当初、Web上で取引をすることはなかった。コンテンツ、つまり情報を得るためだけに利用していた」と同氏は続ける。やがて、バンキングや商取引などをリモートで行うことによる経済性が、イントラネットの構築、認証技術の改良、メッセージの暗号化といった進化をもたらしたという。
「当時そうだったように、今後も必要性がITの進化を促すだろう」とクレメンティ氏は話す。「ワークロードが非常に重要な情報であったり、コンプライアンスやセキュリティが要求されたりする場合には、クラウドコンピューティングモデルはファイアウォールの内側に実装することになるだろう。その方が効率的だからだ。一方、標準化できるものはすべて社外から受け取ることができる。つまりイントラネットとインターネットがあるように、企業はプライベートクラウドとパブリッククラウドを使い分けるようになるだろう」
IBM、HP、Cisco連合そして多数の小規模企業がこのトレンドに飛びつき、新しいコンピューティングの波に大量の人員と時間と資金を注ぎ込んでいる。企業も個人もこのコンピューティングモデルにより、既存のサービスをWeb上で利用したり、自社のクラウドシステムを通じて顧客やサプライチェーンにそういったサービスを提供したりできるのだ。
クレメンティ氏によると、ワークロードへの依存、サービスの管理、顧客の選択肢というすべての要件をクラウド型のシステムに統合することが、IBMが目指している目標だという。
「これは仮想化、ソフトウェア、あるいはハードウェアだけで実現できることではない」と同氏は話す。
「ITで支えられたサービスに生産技術の手法を適用することが重要だという考え方に従えば、IBMが既に持っている技術がすべて必要になる。次に、Smarter Planetとはデジタルインフラを物理インフラに統合することだと考えれば、サプライチェーンを構成するあらゆる種類のインフラを管理する手段が必要とされる」(同氏)
クレメンティ氏は、この自動化の仕組みを示すものとしてスマートグリッドを例に挙げた。
「現状では、地域の電力会社は1カ月に1度、各家庭の使用電力の検針を行って料金を請求している。PG&E(カリフォルニア州のPacific Gas & Electric)は将来、スマートメーターを利用して、10分に1度、各家庭の使用電力を計測するようになる」と同氏は話す。
「1カ月に1度ではなく10分に1度、電力使用量を計測し、これを2000万あるいは4000万ユーザーに掛け合わせた場合に、まず気付くのは、従来とは比較にならないほど大量のデータを扱うようになるということだ。次に、このメーターが賢ければ、制御、自動化、デバイスの遮断、グリッド全体の管理といったことが可能になると考えられる。これによってもたらされるさまざまな効率化の可能性を想像してもらいたい」
「つまりクラウドコンピューティングとは、Smarter PlanetのためのITだということだ。これが当社の考え方だ。そしてそれを実現するためには、当社が注力してきたようなタイプのソフトウェアとプロセス技術が必要とされるのだ」
クレメンティ氏は、IBMのソフトウェア、サービス、管理技術のメニューとCisco連合のメニューを比較した場合、IBMの方が幅広いベースを持っていると考えている。「当社には、これを実現するためのサービス能力もあるからだ。クラウド分野の多くのプレーヤーと比べると、当社はコンシューマー指向のコンピューティングはあまり得意でないのは認めよう。われわれは企業指向の企業であり、今後もそこにフォーカスしていくつもりだ」
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