SNSやブログなどのオンラインコミュニケーションツールを企業マーケティングに生かす試みが広まる一方、言われなき誹謗(ひぼう)や中傷にさらされるリスクも高まっている。ネットの風評を良き流れにするポイントを探る。
企業マーケティングや情報公開に、SNSやブログ、Twitterなどのオンラインコミュニケーションツールを活用する動きが広まっている。こうしたツールは、企業とユーザーの深いつながりを構築できるメリットがある一方、言われなき誹謗や中傷にさらされるリスクも存在する。インターネット上の風評を良き流れにするポイントについて、ネットへの投稿を監視するサービスを手掛けるガーラバズの佐野真啓CEOに聞いた。
オンラインコミュニケーションツールの発達では、企業と顧客などの関係者の双方が手軽に情報を発信できるようになり、従来のテレビや新聞、雑誌のような媒体よりも密度の深いコミュニケーション関係を築けるようになった。だが、企業にとっては本来提供したいと考える以外の情報も流通するようにもなり、誹謗や中傷などを含めたネガティブな情報が広まるリスクも生じている。
佐野氏によれば、これまでネット上で広まったネガティブな情報によって企業が騒動に巻き込まれたものには、大手電機メーカーの問い合わせ対応に不満を持った顧客がやりとりの内容をサイト上に公表したケースや、地方銀行での信用不安に関するメールが流通して実際に取り付け騒ぎに発展しまったなどの事例がある。最近では、Twitterでのマーケティングメッセージが悪質なスパムと見なされてしまったものもあった。
オンラインコミュニケーションツールで企業情報に介在するのは、企業のマーケティング担当者や広報担当者、顧客(消費者)以外にも、社員や契約社員、業務委託先などのパートナー、退職者、株主、ライバル企業などさまざまな立場の人物であるという。こうした多種多様な人物がかかわるだけに、企業が正しい情報で関係者とコミュニケーションを図りたいとしても、やりとりできる範囲には限界がある。
「風評リスクの問題は、被害コストを数字として算出するのが難しい、企業価値や社会的な信用といった目に見えない資産に損害が生じてしまうこと」と佐野氏。風評リスクへの対策では、企業が良質な情報を発信できるようにしていくことが大切だと指摘する。
同社では2000年からネット風評を監視するサービス「e-mining」を提供しており、サービス業や金融、情報通信関連企業など常時では約200社、のべ700社が利用しているという。同サービスでは、ユーザー企業の担当者が指定したキーワードなどに基づいて、サイトなどへの書き込みを24時間監視し、収集した内容を担当者へ通知する。監視する内容は企業によってさまざまだが、特に株主総会の多い時期の直前など、経営に影響しかねない情報の流通を把握したいというニーズが高い。
担当者は、この情報を検討して具体的な対応策を取るという仕組みである。対応の多くは、情報の流通状況や話題の広がりを継続的に見守るというものだが、必要に応じて投稿者に直接コンタクトする場合や、広報マーケティングの専門機関や法律事務所などと連携して本格対応するケースもある。
ネガティブな情報への対応について、佐野氏は「そうした情報が投稿された事実を消し去ろうという行為は絶対に避けるべき」とアドバイスする。企業がこうした態度に出れば、投稿者やそれに追従する別の投稿者の反感を高めてしまい、誹謗や中傷が氾濫する状況になりかねない。
「一般的にネット上では1%のユーザーが情報を投げ、それに対して10%が追加で書き込みをする。89%は閲覧のみだが、ネット上の風評はこの89%にも広がることを忘れないでいただきたい」(佐野氏)
ネガティブな情報に対して、佐野氏は企業ではそうした情報が提供された事実を冷静に受け止め、原因を適切に分析して対応を考えるべきと指摘する。ネットの風評は企業の環境が健全であるかを測るバロメーターの1つになるといい、ネガティブな情報は企業が抱える問題点を知るきっかけになるととらえることで、その後の健全な情報発信に役立つという見方だ。
企業は事実と原因を適切に分析して対応策を用意し、情報投稿者との「対話」を心掛けることで、ネガティブな情報が企業の健全性を伝える情報に転換することにもつながると、佐野氏は述べる。
「ネットの風評リスクは、損害ではなく企業体質を改善する機会になる。情報の監視は体質改善をPDCAサイクルで実現していく手段の1つでもあり、企業担当者はネガティブ情報へ前向きにとらえていただきたい」(佐野氏)
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