Amazon初のクラウド事業投資、その裏にある戦略とはオルタナティブ・ブロガーの視点

Amazonが事業投資したCirtas systemsは、エンタープライズ市場向けの製品を発売するストレージ事業者である。自社でもエンタープライズ向けのソリューションを強化しているAmazonがなぜこの会社に投資をしたのか、オルタナティブ・ブロガー 鈴木逸平氏が考察しました。

» 2010年10月05日 14時52分 公開
[鈴木逸平,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「鈴木いっぺい の 北米IT事情: 雲の向こうに何が見えるか?」からの転載です。エントリーはこちら。)

 San Jose市に本社を置くストレージ事業者、米Cirtas systemsが「Bluejet Cloud Storage Controller」と呼ばれる、エンタープライズ市場向けのクラウドストレージアプライアンス製品を発表した。

 同時に発表したのはもう1つ。同社が米NEA、米Lightspeed Venture Partners、米Amazonの3社から、合計8.5億円の投資を受けたということである。最も興味深いのは。Amazonにとってこれが、クラウドベンダーに投資した初めての案件であるということだ。

 製品のBluejet Cloud Storage Controllerは、エンタープライズが現在抱えているパブリック、プライベート、ハイブリッドの3つのインフラの統合という問題を解決するためのストレージ製品として位置付けられており、競争の激しい市場にまた1社加わることになる。

 Cirtas systems製品の最も大きな特長は、複数クラウドを常に監視し、データ転送速度、セキュリティ、許容量などを比較した上で、最適なクラウドストレージプラットホームを選択し、データを動的に移動させる機能を自動化していることだ。この最適化のために、製品はアプライアンス内部でクラウド間のデータを移動させるためのストレージアレイと、各クラウドの状況を監視するダッシュボードを装備している。

 エンタープライズにおいては、ローカルストレージを運用管理するのと同じようにクラウドストレージも使いたい、というニーズがあることに着目し、製品のデザインを行っている。アプライアンスの内部構造として、RAM、SSD、HDDストレージもアレイを多重化装備し、さらにクラウドと直接接続するためのゲートウェイ、さらにWAN最適化の機能をサポートしている。

 気になるのは、なぜこの会社にAmazonが投資をしたのか、ということである。自社でVirtual Private Cloudサービス(VPC)を提供し、エンタープライズ向けのソリューションを強化している中、あえてこういう会社に投資をする理由として次のようなことが考えられる。

1 (VPCを適用するにしても)クラウドのストレージを管理する機能は、社内のIT部門の管理下に置きたい。そのため何らかの形でのアプライアンスが必要であり、それを推奨するソリューションが必要になってきた。この辺の市場がどのように成長するかはAmazonにとってまだ不確定なので、買収ではなく、VCとの共同投資の範囲に留めている可能性がある。

2 企業内のプライベートクラウド市場は、米VMWare、米Oracle、米IBMなどの大手ITベンダーが、SIソリューションを主体として提供するビジネスモデルであり、この市場にAmazonが段々と入りにくくなっていると懸念している。Cirtas systemsのようなアプライアンス製品をもつハードウェアベンダーと組むことにより、SIソリューションモデルの中に、AmazonのサービスをSIが導入しやすい形式で提供することが必要だ、とAmazonが認識している可能性がある。

3 Small and Medium Business市場(SMB)、Web2.0市場は、現在Amazon Web Servicesを大きく支えている。しかし今後の市場予測では、クラウド市場はエンタープライズ系に急速にシフトし、SMB、Web2.0企業からの売上マージンが薄くなると予測されている。Amazonは従来の顧客層に依存したビジネスモデルを継続することに、大きな懸念を感じているのではないか、と予測できる。

 市場を独占しているAmazonであっても、常に成長戦略を開拓し続けることが重要であり、じっとはしていられないという状況である。

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