現場で効くデータ活用と業務カイゼン

医師によるEUCの状況をレポート――iPadの活用もトレンドに医療IT最前線(2/2 ページ)

» 2011年01月12日 08時00分 公開
[岡田靖&編集部,ITmedia]
前のページへ 1|2       

MS Officeが病院情報システムを代替する可能性を追求

BizTalkブログによる経過記録の活用例。リアルタイムで病棟横断的な情報を網羅できるようになっている

 Microsoft Officeアプリケーションを使って、短期間ながら病院情報システム(HIS:Hospital Information System、医事会計やオーダリングなどからなる総合的なシステム)の代替運用を実現し、さらなる可能性を研究した成果を発表したのは、国立成育医療研究センター病院 医療情報室の山野辺裕二氏だ。

 国立成育医療研究センター病院では2008年に病院情報システムの更新を行うため、48時間に渡ってシステムが使えなくなることになった。しかし医療機関としての業務を休むことはできない。そこで暫定的な代替システムとして使われたのが、ExcelやWordと、メールサーバやファイルサーバを組み合わせた簡易版のHIS。Excelマクロを駆使して、自動的にWordを立ち上げて入力を促し、その結果をメールで送信、記録はファイルサーバに保存するといった内容だ。

 「この代替HISは手書き運用を大幅に減らし、多くのオーダをペーパーレスにすることに成功しました。しかも、マクロなどは解説書レベルの知識でできる範囲です。ただし、このときは個人認証などが完全でなく、電子保存の完全性が課題として残っていました」(山野辺氏)

 そのため、このときの運用では、伝票や記録は全て紙に印刷し、それを原本としていた。紙で出力した情報は、新システムの稼働後にスキャンして取り込んだりコピー&ペーストしたりして登録したという。

 山野辺氏は、このときの代替HISをベースに、Active Directoryによる認証やSharePointによる文書管理、Exchangeでの更新通知などを使ってどれだけ機能を向上できるか、実際に試しながら検討しているという。

 「Information Rights Managementによるセキュリティや、BizTalkによる他システムとの連携機能まで加えれば、既存のHISが持つ機能のほとんどを代替できると思われます。今後も、実際の運用現場で少しずつ実証する方針です」(山野辺氏)

iOSデバイスとFileMaker Goの組み合わせが医療現場を変える実例

iPad版トリアージシステムのデモ。大きなボタンをタッチして入力していくと判定が進められる

 この研究会では、iPadやiPod touchを使って医師や看護師の活動を効率化するといった内容のデモも数多く行われた。特に目立ったのは、FileMaker Goを用いたものだ。

 救急外来での優先度決定(トリアージ)を開院当初から紙ベースで行っていた阪神北広域こども急病センターでは、後に紙からノートPCに移行、さらに現在ではFileMaker Goの登場を受けて、主にiPod touchを用いたトリアージシステムのテスト運用を行っているという。

 「トリアージは患者1人あたり2〜3分で行わねばなりませんし、カルテではないので数多くの項目を扱う必要もありません。できるだけ迅速に判定できるよう、最小限の項目を入力するだけで判定を行えるようにしています」と、阪神北広域救急医療財団の中村肇氏は説明する。

 ノートPC時代に使っていたFileMaker ProからFileMaker Goへの移行は非常に簡単だったという。トリアージを行うのは看護師なので、携帯性を重視して端末は基本的にiPod touchを使うが、iPadに対応した画面も作っているという。

 「画面の大きさが違うため画面構成も一部変えています。間違った入力をしないよう、できるだけ画面を固定、文字入力も最小限とし、計算が必要な項目では計算入力画面も設けています。FileMaker Goのレスポンスは、少しモタつくところもありますが、おおむね良好で、ノートPCにも劣りません」(中村氏)

iPadとFileMaker Goで作り上げた回診システムのデモ画面。病棟マップ上で巡回する病室の順序を決めたり、回診前に過去の検査結果の履歴を確認したりできる

 一方、J-SUMMITSの代表でもある名古屋大学医学部附属病院 メディカルITセンターの吉田茂氏は、iPadとFileMaker Goを組み合わせて入院患者の回診を支援するシステムを開発中だ。

 「病院内の無線LAN環境を前提として作っていますが、回診前の詰所で院内のシステムからデータをローカルに取り込み、回診中はオフラインでレスポンス良く操作、戻ったら再びデータを戻す、という使い方を基本に考えています」と吉田氏は話す。

 このシステムには、患者の情報を元に巡回する順序を決めるロジックも作り込んでいる。例えば感染症の患者を後にするなどといった回診時の禁忌などが盛り込まれており、医師の判断を助けることが可能だ。

 また、検査画像の取り込み機能も開発中で、完成すれば完全にオフラインでの利用が可能になる。回診中にiPadの画面で患者に画像や検査履歴を見せて説明する、といった風景が、今後の病院では日常的に見られるようになるのかもしれない。

「Noと言わない」を目指す集団

 今回の研究会はJ-SUMMITSの総会も兼ねており、その活動報告なども行われた。

 「今回のキャッチフレーズは『NOと言わないJ-SUMMITS!』。我々としては、パッケージベンダーの営業のように『できません』とは言いたくありません。我々に相談があったら、まず『Yes』から答えましょう」と、吉田氏は会の活動について触れた。

 また、閉会の際、J-SUMMITS東海北陸支部長で松波総合病院 産婦人科の松波和寿氏が会員たちに向けて語った言葉も印象的であった。「せっかくこうして集まったのだから、良いものを作ったら、それを共有して皆で使おう。一から作るのをやめよう。そして後継者を育てていこう」(松波氏)

関連キーワード

医療 | FileMaker | iPad


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ