「おむつとビール」よりも大切なものがあるビッグデータいろはの「い」(3/3 ページ)

» 2012年06月20日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
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「洞察」「行動」「蓄積」のループが競争力に

 「ビッグデータの活用は、ゴールドラッシュになぞられて考えると理解しやすい」と話すのは、日本IBMでInformation Management事業のマーケティングマネジャーを務める中林紀彦氏。

 その舞台はカリフォルニアがまだ州になっていなかった1848年のサンフランシスコ近郊だった。製材工場の水車の下から偶然砂金が発見され、その噂は瞬く間に世界中に広がる。1855年までに少なくとも30万人が殺到したといわれているが、多くの人たちの一攫千金は夢のままで終わった。初めのうちは小川に入って鍋でさらえば砂金を採取できたが、のちになると情報や技術、そして資金や労働力を持った金鉱山会社しか儲けることは難しくなっていったからだ。最初に金を発見した製材工場の監督者でさえ、破産してしまったと伝えられている。

 「情報活用もひとつのインサイトを獲得したらそれで終わりというわけではない。“個”客のニーズをつかんだら、それを基に計画を立てて迅速に手を打ち、その結果を分析して再びさらに深いインサイトの獲得につなげていく。このPDCAサイクルを上手く回していくことができれば、むしろ市場の変化を味方につけ、他社に先んじることができる」(中林氏)

「おむつとビール」は伝説に過ぎない

 データマイニングに関する1990年代の伝説として「おむつとビール」のバスケット分析事例がよく知られているが、これがどうも食わせ物だ。スーパーマーケットチェーンの販売データを分析したところ、かさばる紙おむつを妻から頼まれた夫が、そのついでにビールを半ダース買う傾向がある、といういかにもありそうな話だが、実際にそうした分析が行われ、施策に生かされたどうか真偽のほどは分からない。データマイニングを理解させるには上手い説明だったが、少し大きな期待を持たせすぎたようだ。「わが社でもデータを分析してみたが、“おむつとビール”のようなインサイトは得られなかった」という話をしばしば聞く。

 ビッグデータ時代を迎える今、そうした一発当てた的なインサイトよりも、むしろデータが一元的に管理され、必要とする社員がいつでも入手できる環境づくりと意思決定の権限委譲を進めることの必要性や、失敗を恐れず、何でも試し、その結果を分析して次に生かす、という企業文化の重要さが改めて思い知らされる。

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