エンタープライズモバイル時代の大活用術

モバイル活用型の業務システムを実現させるポイントは何か?エンタープライズモバイル時代の大活用術(2/2 ページ)

» 2013年08月07日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
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導入効果やコストも熟慮すべき

 次に、スマートデバイスの取り組みの達成度に関する質問では「要件の充足(目的達成や課題解決の成否)」「導入予算(想定予算内か越えたか)」「運用予算(同)」の3つの点で企業の状況を調べた。

 回答企業の中で3つとも「○」だった割合が高いのは、「経営層や社員が各種データの集計/分析結果をどこからでも確認できる」(43.2%)や「営業が外出中に訪問先の購入履歴やトラブル履歴を事前に参照する」(33.3%)であった。

出典:ノークリサーチ(2013年中堅・中小企業におけるスマートデバイスからのERP活用に関する調査報告)

 この2点の回答を実現するために講じた手段について、「経営層や社員が各種データの集計/分析結果をどこからでも確認できる」では63.0%の企業がERPのオプションパッケージを追加購入していた。「営業が外出中に訪問先の購入履歴やトラブル履歴を事前に参照する」では、オプションパッケージを追加購入と機能の独自開発がそれぞれ31.3%だった。

 一方、「要件の充足」や「導入予算」が○でも、「運用予算」が×という回答が、「営業が外出中に訪問先の購入履歴やトラブル履歴を事前に参照する」(22.2%)や「消費者が持つスマートデバイスへの情報配信(クーポン配布など)」(36.5%)で高かった。運用後の課題としてコストが膨らむケースが少なくないようだ。岩上氏は、「本来はパイロット導入時に見積るコストと本格導入後のコストを切り分けて検討するはずだが、一緒になってしまっているケースも見受けられる」と解説する。

 例えば、あるアパレルショップでは一部店舗で来店客の好みを店員が音声でスマートデバイスに記録し、顧客データとして活用するトライアルを実施したとする。その効果が確認され、いざ本格導入を検討しようという段階で幾つも検討すべき課題が浮上する。

 顧客データベースに音声データの項目を加えるかどうかという開発だけもコストが大きく変わる。それを一部店舗や地域だけ行うのか、全国規模で展開するか、短期なのか、長期などのかでも異なる。同じ業種でも店舗ごとに独自色が強い、あるいはチェーン展開しているかでも変わるだろう。

 上述の「消費者が持つスマートデバイスへの情報配信(クーポン配布など)」では配信手段にSaaS型サービスを利用すれば業務担当者の負担が軽減され、配信範囲も広がるが、継続的にコストが発生し、配信規模が大きくなれば費用もさらに掛かってしまう。一方で配信範囲に制約があるものの、Webサイトにクーポンをダウンロードする二次元コードを掲載するだけなら、コストも手間も掛からない。

 「投資規模を含めたこうしたさまざま点を踏まえ、スマートデバイスをどのように活用していくかは、経営層が判断することになる」(岩上氏)

企業活用の成否はベンダーの本気度次第?

 ノークリサーチの調査から企業のスマートデバイス活用について、現状では企業内に蓄積されている情報を参照するというシナリオにおいて、パッケージソフトなどを活用しながらコストに見合った成果を挙げているケースが多いようだ。スマートデバイスならではの機能を活用して情報を入力し、活用するというシナリオはようやく顕在化し始めたという状況だろう。

 今後の活用シナリオの広がりについて岩上氏は、業務アプリケーションベンダーがどれだけ本気になるかが鍵を握るとみる。同氏よれば、ユーザー企業はPCとスマートデバイスを違うものとして活用したいと考える傾向が強い。現状の製品などをみると、PC向けの業務アプリケーションをスマートデバイスに最適化させて表示するといったものが多く、GPSやカメラなどのスマートデバイス特有の機能を取り入れた業務アプリケーションは種類も数も少ない。

 「スマートデバイスを活用したアプリケーションはコンシューマ向けのものが多い。こうしたアプリケーションを開発しているのは若いベンチャー企業が多く、彼らにヒアリングすると、『Appleが好き」『Googleが好き』といった嗜好の影響も見え隠れする」(岩上氏)という。

 ユーザー企業がスマートデバイスに求めるのは、PCと同様にベンダーから安定かつ長期的に製品が供給されることであり、現状ではデバイスの種類やアプリケーションの点でも、ユーザー企業のニーズを満たすものはまだまだ足りていない状況だ。

 岩上氏は、「業務アプリケーションベンダーが本気になれば、OSの勢力図すら変わるかもしれない。企業にとってスマートデバイスは戦略的な存在であり、目的も投資規模も企業ごとに異なる。ベンダー側がこうしたニーズを汲み取り、ユーザー企業に豊富な選択肢を提供して収益化できるかどうかも、スマートデバイス活用の今後を左右するだろう」を話している。

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