競合にはないクラウドで地銀を支援 フューチャーアーキテクト田中克己の「ニッポンのIT企業」

フューチャーアーキテクトが金融機関向けクラウドサービスに乗り出した。競合他社との差別化を図り、5年間で30社のユーザー獲得を目指す。

» 2013年09月25日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 ITコンサルティングを手掛けるフューチャーアーキテクトが金融機関向けクラウドサービスに乗り出した。2年超の歳月をかけて完成させたサービスを、地銀や信用金庫、信用組合向けコア業務に提供する。今後5年間で30社のユーザーを獲得する。クラウドサービスを効果的に活用するための支援も合わせて提供する。

クラウドにした理由

 岡山県岡山市に本社を置くトマト銀行が2013年3月、フューチャーアーキテクトの地域金融機関向け戦略業務クラウドサービス「SKYBANK」を利用した新渉外・融資支援システムの稼働を開始した。SKYBANKは営業推進、預かり資産販売、融資審査、収益管理、リスク管理などを統合的に提供するクラウドサービスで、金融機関としてトマト銀行が初の導入になるという。

 フューチャーアーキテクトでアドバンスドビジネス本部金融&ソリューショングループを担当する荒井政美執行役員は「SKYBANKの原形になったのは、2000年に稼働した鹿児島銀行の融資支援システムだ」と明かす。このほかにも、十数行に個別開発した融資支援システムを納入した実績がある。

 こうしたフル機能を装備した融資支援システムは、地銀上位行に適するものだという。個別開発の場合は、一般的に投資額は十数億円(5年間のランニング費用含めて)と言われており、中下位行には大きな負担になる。そこで、「コンパクトに整理したシステムをクラウド形式で、安価に提供できないかと考えた」(荒井執行役員)。それがSKYBANKというわけだ。料金は個別開発に比べて、3分の1程度。導入期間も短い。荒井執行役員によると、個別開発は通常、2年程度かかるのに対して、SKYBANKだと半年程度で済む(ただし、コンサルティングに数カ月かかる)。

 SKYBANKには、もう1つ大きな特徴がある。ユーザーがサービスを使いこなしているかどうかを定期的に調べて、活用度が低ければ効果的な方法を助言するというものだ。「開発したシステムをユーザーに納入した終わり」という請負型の受託ソフト開発とは異なり、フューチャーアーキテクトが導入効果まで踏み込むのはユーザーとの長い付き合いを続けるためでもある。

 具体的には、SKYBANKを使って成果を上げているのかをKPI(重要業績評価指標)でチェックする。例えば、融資業務の効率化で、顧客訪問などの営業時間を計画通り捻出できたのかどうかをKPIとする。目標が未達成の場合、使い方の問題点を洗い出し、「どんな工夫をしたらいいのかを提案する」(荒井執行役員)。そこにもクラウドサービスにした理由がある。

個別最適を解決したい地銀

 だが、金融機関にクラウドを利用することへの抵抗はなかったのだろうか。「2年前まではあったが、今では選択肢の1つになった」(荒井執行役員)。クラウド利用の実績が出てきたことに加えて、コスト圧縮が喫緊の問題になってきたからだ。「セキュリティなど信頼性がしっかり確保できたことも理解されてきた」(同)。

 一方、地銀や信金などは「トップラインを伸ばして、収益を上げるために全体最適化したい」(荒井執行役員)というニーズもあった。裏側には、「『このままではまずい』という危機感がある。利ざやが縮小する中で、生産性をどう上げるかは大きな課題になってきた」(同)ことがある。勝ち負けがはっきりしてくる時代に備えて、競合行を引き離して、大きくリードしたいという気持ちになるのは当然かもしれない。

 だが、現状は部門ごとの最適なシステムになっている。縦割り組織になっていることも大きい。それを解決し、営業力を高めるには全体最適なシステムに作り直すことが求められてきた。導入にあたっては、ユーザー側に横串のプロジェクトチームを編成してもらう。もちろん、トップの強いリーダーシップがいる。課題に対して、全役員で解決に取り組むという決意ともいえる。

 「どうあるべきか、当社も一緒になって考える」(荒井執行役員)。トマト銀行の場合、営業支援、格付・自己査定、償却引当のサービスが一気通貫でつながったことで、顧客への訪問時間が25%増えることを期待している。「トータルで機能を考えないと、融資業務の効率化を図れない」(荒井執行役員)とし、約100人の陣容で金融機関に売り込む。


一期一会

 荒井執行役員は、いくつかの外資系ITベンダーで金融機関を担当してきた。その経験から、統合的な融資支援システムの重要性が高まると認識。しかも、情報系である融資支援システムは勘定系とは異なり、競合との差別化を図れる。フューチャーアーキテクトにとってもだ。勘定系は、NTTデータや日本ユニシスなど大手IT企業が手掛けており、彼らが運営する共同センターに移管した地銀や信金は少なくない。

 だが、共同センターに移行したことで、IT部門を縮小した地銀や信金の中には、「差別化を図る情報系はどうするか」という問題に直面する企業も多い。その中でも融資支援システムは、統合的な機能を備えるシステムが少ない。勘定系のオプションとして利用したり、IT企業が提供する一部の機能を組み合わせて使ったりする方法もある。

 そこに、フューチャーアーキテクトは着目し、SKYBANKを開発した。「競合他社に同じようなものはない」と、荒井執行役員はこれを自信作だという。とはいっても、不足する機能はある。今後は「当社にない機能を持つIT企業と組んで、クラウドに載せて提供する」。

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