2016年に入り、JALはIoTだけではなくロボット活用の実験も始めた。仏アルデバラン社製の小型ロボット「NAO」とサイネージを組み合わせた受付業務だ。券売機画面による誘導だけではなく、対話形式による情報提供で顧客体験は変わるのか、そして他言語(英語・中国語)での情報提供ができるかといったテーマを設定しNRIと共同で開発を進めた。
「スタッフでもなくデジタルサイネージでもなく、なぜロボットが必要なのかと思われる方もいるかもしれません。アナログとデジタル、この両者の中間であるロボットにしかできない価値があるのではないか、という仮説を基に実証実験を進めました」(小磯さん)
搭乗ゲートの位置、現地の口コミ、天気情報、雑談……NAOとできるコミュニケーションは多岐にわたる。対話を終わらせるときには「もっとお話ししたかったです。さびしいですね」と返してくるあたりが何ともいじらしい。今後もしロボットが導入されれば、人間の役割分担はどうなっていくのか。2月中旬に実施したこの実験は現在、効果を検証している段階だという。
JALがこのように実証実験を繰り返しているのは、さまざまな新技術をITベンダーやSIerが持ち込んでくることが大きいという。実証実験の実績が新たな実験を生んでいるというわけだ。その際には、小磯さんなどのIT企画本部がブレインストーミングを行いながら、業務に活用できそうな部分を協議するのだそうだ。
小磯さんたちが属するIT企画本部は、業務部門でもIT部門でもない。ITを活用した業務を企画する間接部門だ。しかし、だからこそ現場やIT部門と組み、そして両者の間に立ち、業務への効果の高いと思われる実証実験を企画できるのだという。
IoTやAI、ロボットについては今後も継続的な取り組みが必要――数多くの実証実験を振り返り、小磯さんはこう語る。変化の激しい時代、新たな価値を生み出すサービスを開発するには試行錯誤を繰り返すしかないという。
「確かにさまざまな実験を行っていますが、今のままでは規模的に不十分だと考えています。今後はソリューションを“点”で試すのではなく、いろいろな要素を組み合わせて“線”や“面”での取り組みを行う必要があるでしょう。モノがスマート化すれば、サービスがスマートになる可能性が広がります。しかし、それが単なる押しつけになってしまえば意味がない。人とモノとの新しい関係、これこそがIoT時代の新たな“おもてなし”ではないでしょうか」(小磯さん)
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