AWSでは、生成AIを「ビジネスのための生成AI」と「生産性向上のための生成AI」に分類している。
ビジネスのための生成AIでは、パートナー企業のビジネス拡大を支援する。渡邉氏はその事例として、NTTデータが提供するAIエージェントプラットフォーム「SmartAgent」にAWSのサービスが適用されているケースを挙げた。SmartAgentは複数のAIエージェントを連携させて業務の効率化を図ることで、図3の右側に描かれたイメージを目指している。
具体的には、SmartAgentサービスの第1弾である営業特化型エージェント「LITRON Sales」にAmazon Bedrockのエージェント機能が適用されている。ちなみに図3には「Amazon Bedrock Agent」と記されているのでAIエージェント向けの新たなサービスが出たのかと確認したところ、あくまでAmazon Bedrockの機能の一つとのことだ。
一方、生産性向上のための生成AIは、業務アプリケーションの開発・テスト・デプロイ・監視を包括的に支援する(図4)。
その上で、渡邉氏は、ビジネスおよび生産性向上のための生成AIに向けた取り組みとして4項目を挙げた(図5)。これらはパートナー戦略としての取り組みだが、先に述べたITエンジニアの所属先の関係から、パートナー企業を通じたユーザー企業にとっても本質的には同じだと見てよいだろう。
以上が、渡邉氏による生成AIの取り組みについての説明だ。これを受けて、質疑応答で「企業の業務システムにこれからAIエージェントがどんどん適用される中で、AWSはAIエージェントについてどのような事業展開を考えているのか。クラウド基盤サービスだけでなく、AIエージェントを管理し活用するプラットフォーム領域、さらには他のAIエージェントと競合する事業領域まで広げる考えはあるか」と聞いた。これに対し、同氏は次のように答えた。
「まず、生成AIにおけるAWSの基本的な考え方として、AIエージェントもこの領域の範囲内の話だと捉えている。従って、AIエージェントも生成スタック(図1)と同様に展開することになる。中でもパートナー企業からの要望が強いのは、生成AIスタックの中央の層にあたる生成AIアプリケーションを構築するための基盤モデルやツールだ。その生成AIアプリケーションにAIエージェントが当てはまる形となる。パートナー企業に対してはこの支援に注力していく」
その意味では、先に機能の一つとして取り上げたAmazon Bedrock Agentが、AWSならではのAIエージェント事業に進化する可能性もありそうだ。
最後に、この機会にAIエージェントが今後、企業の業務システムにどのように適用されるかを考察したい。
まずは、既に多くのサービスが登場している「業務アプリケーションに組み込まれたAIエージェント」が使われるだろう。ただし、これはそれぞれの業務アプリケーションにおける機能強化と捉えられる。
今後は、多くの業務プリケーションに組み込まれたAIエージェントが連携して協調しながら、業務を横断した形で効率化を図ることもユーザーニーズとして高まるだろう。
ただ、改めて業務システムの観点からAIエージェントがどのように適用されるかを考えると、有力な形の一つとして個々のユーザー(人)に帯同した「パーソナルエージェント」を起点として社内外のさまざまな業務のAIエージェントとやりとりできるようにする仕組みがある。先に紹介したNTTデータのSmartAgentが目指しているイメージ(図3の右側)が、それにあたる。
そう考えると、パーソナルエージェントに適用されるツールが何になるかというのが、AIエージェント市場の勢力争いを大きく左右することになりそうだ。AWSもAmazon BedrockあるいはAmazon Qの進化版でそこを狙っているのかもしれない。
とはいえ、この話はどのAIエージェントを選ぶかだけでなく、コストパフォーマンスはもちろん、個々の企業における業務システムの在り方、ひいては組織の在り方にも関わってくるので、今後どのような動きになっていくか、まだ分からないところがある。分からないから面白いというのが、筆者の実感だ。引き続き、取材を続けたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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