CRMシステムは高額なものから、パソコンソフトを組み合わせて実現できる簡易なレベルのものまで多種多様であるが、いずれにしても不可欠となるのが、パターン分類のための大量の実績データを蓄積することである。
残念ながら、古いコンピュータシステムの場合、このような統計解析処理をもともと想定しておらず、事務処理上必要となる計算や集計するための部分的なデータ蓄積をしかするように設計されていない。せっかく顧客からの問い合わせや注文、納品といったさまざまな情報を収集しているにもかかわらず、統合管理されていないため、CRMシステムには利用できないのである。
統計解析の仕組みがあっても、過去の実績データが十分に蓄積されなければ有効な分類判定はできない。CRMシステムをものにした企業は、過去の蓄積データも一元的なデータベースに変換しているのである。
ここで少しIT寄りの話をしておこう。データベースという言葉の意味を正確に理解している人は意外に少ない。
古いコンピュータシステムでは受注や請求といった個々の処理プログラムごとに作成される入力画面や出力帳票に合わせて必要となるファイルが用意されていた。このような方法では、同じ内容を持つ情報が目的ごとにファイル化されるため、データを統合管理することができなかった。
そこで登場してきたのがデータベースである。データベースではデータを、データ部品とデータ部品からなるデータ製品とに分けて、処理プログラムはデータ部品からなるデータ製品を利用し、データ部品を標準化することによって、情報の統合管理の実現を図っている。データを1つの場所に集めればデータベースと呼ぶのではなく、データの部品化、標準化が実現していてこそ、データベースがあるといえるのだ。
データベース化は企業において、天気予報が採用している数値予報を実現するうえで、不可欠である。企業における数値予報とは、データウェアハウスやデータマイニングのことと思って構わない。ITベンダの提案に乗って、データウェアハウスやデータマイニングを導入したにもかかわらず、想定していた効果が出ないで困っている企業は、データベース化が十分できているかについて確認していただきたい。
ITに不信感を抱く経営者が多いが、IT効果が出ない理由は地道な基盤作りの方に問題があることが少なくない。成功事例に登場する企業の華やかな部分よりも、退屈で華のない情報システム部門の努力こそ評価されるべきものなのである。
最後に、知識やデータのクレンジングの重要性について触れておきたい。知識やデータを駆使した経営は一見格好がいいが、その知識やデータが古かったり誤っていたりすると、こっけいなことになる。
データ野球が直感野球に負けることがあるのはこのためである。それと、例外に出合うことが少なければ少ないほど、人は既存の知識やデータを真実のものと誤解しやすくなる。仮説を検証することを忘れて、真実と区別がつかなくなるのだ。このようなことがないようにするには、組織の中で経験を共有することが大切である。知識、データは人が使い回すものであり、知識、データに人が決して振り回されてはいけない。
今回は、捜査の技術第6条「捜査のプロは分類能力が極めて高い」について説明した。
次回は、捜査の技術第7条「探索の原点は仮説の立案と検証にあり」について説明する。プロファイリングもリーディングも、そしてCRMシステムもまた、分類判定による仮説の立案と検証であることを説明した。失敗は成功のもととはよくいったもので、成功者の頭は失敗経験によって、自分の仮説定義能力を高めている。仮説定義能力が低い人は失敗を真摯に反省していない。
自分の推測(仮説)というものが正しいとは限らず常に検証されるべきものであるという真摯な姿勢を持っていてこそ、人はプロファイラーやリーダーになれるのである。
杉浦 司(すぎうら つかさ)
杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役
京都生まれ。
京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。
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