競合他社への転職はどうやれば防げるのか読めば分かるコンプライアンス(4)(2/2 ページ)

» 2008年04月10日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]
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転職する社員への対応

 第3回では、岡田の上司である鬼河原が岡田から転職の意思を伝えられて、「そんなことは認められん!」と、頭ごなしの対応をしています。

 それに対して岡田は、先輩である磯崎から伝授された反論を展開しているが、この反論は、(1)営業秘密に関する秘密管理性の欠如、(2)契約論の2つを、主な反論の柱としています。

 営業秘密に関する秘密管理性の欠如については、前述の通りです。つまり、グランドブレーカーにおいては、留学経験についても「メソドロジー One」という方法論についても、それを営業秘密であるとする規則も規程もないし、留学前に機密保持契約を交わした事実もないのですから、転職をもって営業秘密の漏えいになるとはいえない、という反論になります。

 契約論については、第3回で岡田が述べている通り、会社との関係は労働契約であるので、契約である以上は解約は可能で、解約した後は会社の指揮命令権は及ばない、というものです。

 取締役には会社法に基づく競業避止義務が課せられていますが、それは会社と取締役との関係が労働契約ではなく委任契約であり、会社の業務のすべてを熟知している(とされる)取締役の特殊性に基づいて定められている義務であり、従業員にはそのような義務は課されていないのです。

 中には、従事している業務自体が営業秘密に該当し、そのために従業員であっても競業避止が求められるというケースもあり得ますが、そのような場合には、就業規則などの規程あるいは個別の契約によって、事前に(すなわち、転職の意思を持つ前に)競業避止に関する合意をしておくべきです。

ALT 鬼河原 茂樹

 法律論をいえば前述の通りですが、第3回では「社員のモチベーション」というものを、いわば影のテーマとして描いています。

 転職を決意する理由はさまざまであると思いますが、その職場におけるモチベーションの低下という理由も大きいと思います。

 コンプライアンスを「法令遵守のみ」ととらえるならば、社員の転職についても前述のような法的措置を取れば十分かもしれません。

 しかし、コンプライアンスとはステークホルダー(この場合は社員)の信頼を得ること、というようにとらえるならば、前述のような法的措置だけではなく、その社員はなぜ転職しようと決意したのか、それがその社員のモチベーションの低下にあるならば、その原因は何かを突き止めて、その原因を除去し、職場環境を改善することが必要となるのです。

【次回予告】
 次回は、「パワハラ」をテーマにした問題を定義します。パワハラで悩んでいる方も多いと思われますが、実際にコンプライアンスの観点で見ると、どのような問題が浮かび上がってくるのでしょうか。この問題を分かりやすく解説します。ご期待ください。

著者紹介

▼著者名 鈴木 瑞穂(すずき みずほ)

中央大学法学部法律学科卒業後、外資系コンサルティング会社などで法務・管理業務を務める。

主な業務:企業法務(取引契約、労務問題)、コンプライアンス(法令遵守対策)、リスクマネジメント(危機管理、クレーム対応)など。

著書:「やさしくわかるコンプライアンス」(日本実業出版社、あずさビジネススクール著)


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