
フレックスタイム制は、従業員の柔軟な働き方を促進できる一方で、清算期間やコアタイムの設計、残業算定や有給の扱いなど「勤怠管理」の面で迷いやすい課題が挙げられます。この記事では仕組みと利点・留意点、導入手順、勤怠管理の実務ポイント、さらにシステム選定の勘所までを分かりやすく解説します。
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目次
フレックスタイム制の勤怠管理とは
フレックスタイム制の勤怠管理とは、従業員が日ごとの始業・終業時刻を自律的に決めつつ、清算期間(= 会社が定める1か月〜最長3か月の基準期間)の合計労働時間が、労使協定等で定めた「清算期間の総労働時間」を満たすことを前提に働く制度です(例:毎月1日〜末/1月21日〜4月20日)。導入にあたっては、対象となる部署や職種を明確にし、適用しない業務の基準も事前に設定しておくことが必要です。
また、社内で使われる基本用語の定義について共通認識を作ることも重要です。例えば、「清算期間」「総労働時間」「コアタイム」「フレキシブルタイム」といった用語も、全員が同じ理解で運用できるよう共有しておきましょう。
実務上は、給与の締め日と清算期間の開始日を合わせて設定すると、勤怠データの集計や給与計算がスムーズになります。こうした工夫により、集計と支給のずれや手作業による修正作業の手間を減らせます。
締め処理や給与計算の“転記削減”は「勤怠管理システムと外部システムの連携で業務効率化を実現する方法|おすすめ製品7選」をご覧ください。
フレックスタイム制の仕組み
フレックスタイム制では、「清算期間」を最長3カ月まで設定でき、期間内の合計労働時間で労働状況を判定します。総労働時間は「所定労働日数×1日の標準労働時間」で算出され、法定休日は所定労働日数から除外します。
この制度では、日々8時間を超えて勤務した場合でも、清算期間内の合計が所定内であれば時間外労働とみなされません。逆に、期間合計が所定を超えた場合は、超過分だけを時間外として計算し、割増賃金の支払い対象とします。
例えば、1カ月の総労働時間が160時間のケースで、期間内の合計が165時間だった場合、超過した5時間分だけが時間外労働として扱われます。
清算期間と有休の扱い整理は「有休管理(年次有給休暇管理)システムとは? 主な機能と選定時の注意点、導入すべき企業」をご覧ください。
フレックスタイム制のメリット
フレックスタイム制には、企業と従業員の双方にとって多くの利点があります。ここからは具体的なメリットを5つの視点で整理します。
- 通勤負担を減らせる
- ライフスタイルに合わせられる
- 残業時間を抑えられる
- 人材の確保につながる
- 従業員の定着を促せる
通勤負担を減らせる
始業時刻や終業時刻を各自が自由に調整できるため、通勤ラッシュなど混雑する時間帯を避けて出社できます。気温や天候が悪い日には、無理せず出退勤時間をずらすことで体調管理にもつなげることができます。
在宅・直行直帰の勤怠把握は「テレワークに有効な勤怠管理方法|効率的な手段と導入のポイント」をご覧ください。
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ライフスタイルに合わせられる
フレックスタイム制の大きな特徴は、家庭の事情やプライベートな予定に合わせて柔軟に働けることです。例えば育児や介護の送迎、学習や定期的な通院などと仕事を両立しやすくなり、計画的に働ける環境が整います。
残業時間を抑えられる
業務には必ず繁忙期と閑散期がありますが、フレックスタイム制なら繁忙期に前倒しで多めに働き、閑散期には調整して早く帰宅するなど、期間全体で労働時間をコントロールできます。これにより、日々の業務量に左右されることなく、長時間労働の発生を抑えることができます。
人材の確保につながる
柔軟な働き方ができることは、求人応募の段階から企業の魅力となります。勤務地や家庭の事情でフルタイム勤務が難しい人材にも門戸を開くことができ、さまざまな背景を持つ人の活躍の場を広げられます。
従業員の定着を促せる
従業員自身が働き方をコントロールできる環境は、仕事の満足度や企業への定着率の向上にもつながります。通勤や生活の負担が軽減されることで、離職を抑える効果も期待できます。
フレックスタイム制のデメリット
一方で、フレックスタイム制の運用には注意点や課題もあります。事前にデメリットを把握し、対策を検討しておくことが大切です。
- 勤怠管理が複雑になる
- 社員同士のコミュニケーションが減る
- 取引先対応に支障が出る
- 自己管理が求められる
勤怠管理が複雑になる
従業員ごとに出退勤時刻が異なるため、清算期間をまたぐ集計や補正作業が増えます。手作業で管理すると集計ミスが起きやすく、従業員数が多い場合は現実的ではありません。
社員同士のコミュニケーションが減る
勤務時間のばらつきによって、対面での相談やレビューの機会が減少しやすくなります。情報共有が遅れないように、定例会議や掲示の運用を強化するなど、意図的なコミュニケーションの工夫が必要です。
取引先対応に支障が出る
担当者がいつ在席しているか分かりにくくなり、顧客や取引先からの問い合わせ対応が遅れる可能性があります。代表窓口や当番制度など、不在時の一次対応の仕組み作りが欠かせません。
自己管理が求められる
フレックスタイム制は計画的な自己管理が前提となる制度です。業務計画が甘いと清算期間末に過度な調整が必要になったり、学習や私用の時間配分を誤ると業務の集中力が下がったりするため、従業員自身の意識も大切です。
コアタイムとフレキシブルタイムについて
フレックスタイム制の運用では「コアタイム」と「フレキシブルタイム」があります。コアタイムは全員が必ず在席し、会議や重要な連絡を集中的に行う時間帯を指します。一方でフレキシブルタイムは、従業員が自分の裁量で出退勤できる時間帯のことです。
打刻の締め時刻や、日をまたぐ勤務の扱いについてもルールを明確にし、誤解が生じないように社内でしっかり周知しましょう。また、コアタイムを設けず完全な裁量に委ねる「スーパーフレックスタイム制(フルフレックス)」を導入する場合は、緊急連絡手段や相談窓口の運用を一層強化しておく必要があります。
清算期間の決め方
清算期間の長さは、企業ごとの業務サイクルや繁閑の波に合わせて設定します。プロジェクト単位で繁忙期が異なる場合や、季節によって業務量が変動する場合は、最長3カ月といった長めの清算期間を設定することで労働時間の調整がしやすくなります。
また、給与計算の締め日や支給日と合わせて運用すれば、勤怠締め後の修正作業も減り効率的です。在宅勤務や時差出勤など他の勤務制度との併用ルールも同時に整理し、現場で迷いが出ないようにしましょう。
清算期間の期間と向くケース
| 期間 | 向くケース | メリット | 注意 |
| 1カ月 | 月次締め/バックオフィス | 管理がシンプル/定着しやすい | 大きな繁閑は吸収しづらい |
| 2–3カ月 | 制作・開発・イベント等の波 | 繁閑をまたいで調整可能 | 運用・集計が複雑になりがち |
| 1週間 | 小売・飲食など週次シフト | 現場で直感的に回せる | 柔軟性低/過不足が週で確定 |
フレックスタイム制の勤怠管理導入の手順
フレックスタイム制を導入する際は、段階的な手順を踏んで慎重に進めることがポイントです。ここからは、制度設計から運用開始後の見直しまで5つのステップに分けて解説します。
- 制度設計:対象者/清算期間/総労働時間/コア・フレキシブル/日またぎ・深夜・休日の扱い定義
- 労使協定:対象/清算期間/決定方法/コアタイムを明記(1カ月超は労基署へ届出)
- 就業規則改定:始終業の決定方法/遅刻早退/休憩・深夜/不在連絡等の行動ルールを明文化
- 周知・研修:目的・メリット・自己管理の要点、管理者の確認ポイント、試験運用で検証
- 運用・見直し:清算期末の偏り/会議設計/当番制の有効性をデータで改善
制度設計
まずは自社の実情に合わせて、フレックスタイム制の対象者、清算期間、総労働時間、コアタイムとフレキシブルタイムを決めます。また、日をまたぐ勤務や深夜・休日の取扱い、在宅勤務や時差勤務との併用ルールも整備しましょう。勤怠締め日と賃金支給日の関係も整理しておくことで、運用時の負担を軽減できます。
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労使協定の締結
導入には、労働者の過半数で組織する労働組合や代表者と書面による協定を結ぶ必要があります。協定には、対象となる労働者、清算期間や総労働時間、始業終業の決定方法、コアタイムなどを明記します。なお、清算期間が1カ月を超える場合は、所轄労働基準監督署に届け出を行うことも忘れないようにしましょう。
就業規則の改定
労使協定の締結と同時に、就業規則にもフレックスタイム制のルールを明記します。始業・終業の決定方法、遅刻や早退の扱い、休憩や深夜の取扱い、不在連絡や在席表示など、円滑な業務遂行のための行動ルールも付帯規定として記載します。
従業員への周知
新しい制度が現場でしっかり使われるためには、丁寧な周知が欠かせません。説明会や研修を通じて制度の目的やメリット、自己管理の重要性などを伝え、質疑応答で不安を解消しましょう。試験運用期間を設けて、実際の勤怠集計や申請フローに問題がないかもチェックします。管理者向けには、勤怠確認や声かけのタイミングについても研修を行いましょう。
運用開始後の見直し
導入して終わりではなく、定期的に勤怠データや運用状況を分析し、課題があれば制度や運用ルールをアップデートしていきます。例えば清算期間末に労働時間の調整が偏っていないか、会議時間や当番制が機能しているかなどを確認し、必要に応じて見直します。
フレックスタイム制勤怠管理の注意点
フレックスタイム制独自の勤怠管理には、特に残業や有給休暇の扱いで注意すべき点があります。
残業時間の算定方法
残業時間(時間外労働)は、「清算期間における実労働時間の合計が、あらかじめ定めた総労働時間を超えた分」として計算します。清算期間が1カ月を超える場合、週平均50時間を超えていないかを月ごとに確認し、超過分はその月の給与で精算します。
また、深夜(22時~翌5時)や休日の勤務は、別途割増率で計算します。例えば2カ月清算で合計340時間だった場合、所定320時間を超える20時間分だけが時間外として扱われます。
遅刻・早退の扱い
原則として遅刻や早退という概念は用いず、清算期間の合計で調整します。ただしコアタイムを欠いた場合は、就業規則に基づき欠勤や控除の対象とし、補填の可否もルールで明確にします。不在時の連絡義務や在席表示のルールも合わせて定めておきましょう。
コアタイム欠如時の証跡・通知は「Web打刻で勤怠管理|場所を選ばず勤怠を記録する“Web打刻”の仕組み」をご覧ください。
有給休暇の計算
有給休暇の計算では、標準となる1日の労働時間を基準にします。有給取得日にはその時間分を勤務したものとして扱い、清算期間の合計労働時間に反映させます。半日や時間単位での取得も可能ですが、その場合は控除単位や申請手順を明確にしておきます。
休憩と深夜の扱い
1日の労働時間が6時間を超える場合は法定の休憩を必ず付与します。休憩取得の基準や記録方法を明示し、22時から翌5時の勤務には深夜割増を適用します。勤怠システムで自動集計できるように設定しておくとミスを防げます。
フレックスタイム制に対応する勤怠管理システム選びのポイント
フレックスタイム制における勤怠管理を正確・効率的に行うには、対応したシステムの導入が現実的な解決策です。選定時に特に重視したい6つのポイントをまとめました。
- 勤務形態設定
- 打刻漏れ対策
- 超過アラート
- サポート体制
- 承認フロー機能
- 外部連携機能
勤務形態の設定が柔軟か(清算期間・標準時間・コアの複数パターン/期間またぎ集計と履歴)
自社独自の清算期間、コアタイム、標準労働時間を複数パターンで設定できるか確認しましょう。清算期間をまたいだ集計や修正履歴もシステム上で自動化されているかが重要です。在宅勤務や時差出勤の申請区分、承認フローも同時に運用できることが理想です。
打刻漏れ防止機能の有無(エラーメール/PCログ・位置情報連携)
打刻漏れや二重打刻などのエラーが発生した際、自動で本人と管理者に通知できるかもチェックポイントです。PCログオンやモバイルの位置情報と連携できれば、実際の勤務実態と打刻データの差異も減らせます。
残業超過のアラート機能(清算期末の見込み超過/36上限・深夜・休日の自動集計)
清算期間末の見込み時間を自動計算し、時間外が予想される場合は早めに警告を出せる機能が役立ちます。36協定の上限や深夜・休日の割増対象時間も自動集計されていると、法令順守が徹底しやすくなります。
サポート体制(初期設定~運用トラブルまでの伴走とドキュメント充実)
導入時の設定や運用後のトラブル対応までサポート窓口があるか、分かりやすいマニュアルやオンラインコンテンツが整っているかも確認しましょう。無料試用期間を活用し、自社の勤務パターンを再現できるか事前に検証しておくと安心です。
中小・小規模での運用最適化は「小規模企業向け勤怠管理システムおすすめ7選|選び方や導入ポイント」をご確認ください。
承認フローの柔軟さ(組織改編の自動切替・代理承認・差戻し履歴)
組織変更や人事異動に応じて承認経路を自動で切り替えられる機能や、代理承認・差戻しの履歴を残す機能があると便利です。
外部連携(給与・人事・カレンダー・チャット/在席共有で対応力UP)
給与計算システムや人事管理システム、カレンダーやチャットツールと連携できれば、勤怠データの転記ミスも減らせます。在席状況や予定を共有しやすくなる機能もコミュニケーション促進に役立ちます。
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